2024年10月10日、セゾンテクノロジーは年次イベント「HULFT Technology Days 2024」を開催した。
開幕に先立ち、HULFTを駅のプラットフォームに見立て、駅員に扮した同社 代表取締役 社長執行役員 葉山誠氏が登壇。「過去最大となる35セッションを用意しており、多くの事例も用意した。ぜひ、皆さまに役立てていただきたい」と述べると、“出発進行”という挨拶とともに開幕。総合MCはフリーキャスターの平井理央氏が務めた。
はじめに「頂上へのデータ戦略 スポーツデータ活用の可能性と挑戦」と題したスペシャルセッションに、プロフリークライマーの野口啓代氏と関彰商事 総合企画部 スポーツアナリティクス事業課 早津寛史氏が登壇。スポーツ分野におけるデータ活用の現状や可能性について、対談形式でのディスカッションが繰り広げられた。
野口氏は、東京2020オリンピックのスポーツクライミング女子複合決勝で銅メダルを獲得後、現役を引退。現在は、クライミングの普及活動や外岩での活動も行っている。普段の練習においては、スマートフォンなどで撮影した動画で振り返ったり、後進の育成ではデータを活用したりと最新のスポーツテクノロジーにも目を向けているという。「一番大切なのはフォーム、いかに正しいフォームで身体を動かせるのか。故障にもつながるため、データによる分析をしてもらえるというのは、長い目でみても財産になる」と野口氏。
実際に早津氏は、“マーカーレスモーションキャプチャシステム”と呼ばれる方法で、複数台のハイスピードカメラによって撮影したデータをAIで解析しているという。従来、身体にさまざまな器具を装着しなければ計測できなかったが、着の身着のままで計測ができるマーカーレスモーションキャプチャシステムの利便性は高く、「大会などの現場においても正しいデータを計測でき、スグにでも活用できるのではないか」と野口氏は期待を寄せる。
たとえば、下図のように“ボーンモデル”として計測データを3Dで再現することで、目には見えない関節の動きも把握できるという。トップレベル選手と初心者を比較したとき、壁と重心の距離から差異を見出せると早津氏。自分の理想とする感覚を再現しやすくなるのではないかとして、野口氏は「特にクライミングは登り方が自由、その分だけ特徴がある。だからこそ、どの動きが難しい課題をクリアできるのか。たとえば、(データ量が膨大になれば)将来的には早く成長できるような“正しい型”や怪我のリスクが高い動きなどもわかるのではないか」と述べる。
続いて、基調講演では、セゾンテクノロジーの業績や経営状況、HULFTに係るロードマップなどが紹介された。
セゾンテクノロジーは、データ連携ビジネスを主軸にCAGR(年平均成長率)18%を記録しており、売り上げの半数をデータインテグレーション領域の製品・ソリューションが占めている。また、AWS re:InventやAWS Summit、Salesforce Dreamforceなど、グローバルのイベントに積極出展しており、北米・欧州におけるAIやSaaSスタートアップとの協業を視野にDNX Ventures第4号ファンドへと出資もしている。「技術にこだわっており、人の育成にも力をいれている」と葉山氏。AWS Ambassadorsを含む4部門で5名が受賞していたり、遠隔地勤務を取り入れたり、さらには従業員の睡眠改善に取り組むため“スリープテック”を試験導入することで睡眠データに基づいた健康経営を推進しているという。加えて、新入社員からの“逆指名配属”を採用することで、入社前後でのリアリティショックを無くしたり、配属に対して主体的に取り組めるように工夫したりと、既に一定の効果も表れていると話す。
また、HULFT製品やDataSpiderに係るアダプタ導入などは、SAPのマイグレーション需要を受けて伸長しており、HULFT Squareの利用シーンも広がっているとセゾンテクノロジー 取締役 常務執行役員 石田誠司氏。会場に臨席していた、日本航空 デジタルEX企画部 プロジェクト推進グループ マネージャーの松尾健史氏に水を向けると、同氏は「HULFT Squareの選定前後で国産製品、海外製品を比べてみていた。特にUIがわかりやすく、ユーザーのセルフサービス開発にも取り組めるのではないかと考えている」と話す。また、日清食品ホールディングス 情報企画部 データサイエンス室 室長 板垣義彦氏は「生成AIがデータベースを読みに行き、マーケティング部隊などがアクションを起こせるように整備している。データ連携は工数をかけたくないが重要であり、安定性も求められる。クラウドの拡張性という優位性も享受したく、(セゾンテクノロジーに)期待をしている」と述べる。
加えて、HULFT Squareでは、接続のためのテンプレートを拡充しており、「APIのコネクタによる利便性が比較的高くないことがわかってきた。テンプレートをカスタマイズして使ってもらうことで、すぐに効果を出してもらえる」と石田氏。特にERPなどの基幹データとのデータ連携においては、レガシーデータを抽出してETLを経て、モダンデータスタックへとデータを連携させることが欠かせないとして、「手段として有効なのは『iPaaS』だ」と強調した。
また、セゾンテクノロジーにおける生成AIの取り組みとして、HULFTにおいてはテクニカルサポートで生成AIを導入し、サポートエンジニアの回答作成を支援したり、HULFT Squareユーザー向けのAIチャットボットの提供を予定していたりと、「社内で『LLM Mavericks』を立ち上げ、変化の速いLLMの検証を進めていった」と同社 執行役員 CTO 有馬三郎氏は説明する。同組織では、“Compass over Maps”という考え方に基づきながら取り組んだ結果、活用ゴールを1つに決めないことで多数のモデルと検証できたり、現場が新たな技術をリードすることで品質を高めたりすることができたと振り返る。一方、本格的な活用までは草の根活動でつなげにくかったり、本番利用における制度や速度、倫理のバランスを定めるためにはトップダウンによる判断が必要だったりと、課題も見えたという。
こうした活動は、HULFT SquareにおけるRAG機能につながっており、今後はAIをより組織的に浸透させていくために「AICoE」を立ち上げて、開発面でのAI適用やバックオフィスのFAQなどに取り組んでいくとした。有馬氏は「我々にはオンプレミスに注力してきた強みがある。一方、米国の最新スタートアップの話を聞くと、モダンデータスタックに関わる周辺技術にはまだまだ弱いとも感じた」として、プロダクト開発にもDNX Venturesへの出資効果を活かしていきたいという。
なお、2024年10月には「HULFT Square 2024.2」を提供しており、「DataSpider Servista 4.5」を11月6日にリリース予定、そして12月10日には「HULFT10」をリリースすることが同社 開発統括部 統括部長 石橋千賀子氏より発表された。
下図のようなラインアップが予定されており、圧縮方式「Zstandard」を採用することでHULFT8の約1.4倍の転送速度を記録。zOSへの対応においては、HULFT8の5倍の速度、CPU使用率を50%減少させることができたという。なお、新機能としては「Smart Proxy」「API Gateway」機能が追加される。
また、HULFT10 for Container Services/HULFT10 for Container Platformの2つのバージョンも用意。Container Servicesのアップデートは12月、Container Platformは2025年3月の投入が予定されている。
基調講演の終わりには、ユーザーコミュニティ「DMS Cube」について紹介が行われた。同コミュニティでは、WebサイトでのQ&Aやノウハウ共有、LTや懇親会を交えたイベントなども開催しているという。次回は、コミュニティ運営における企画会議をZoomで公開するような催しも予定しているとした。
なお、HULFT Technology Days 2024は、10月16日、17日にオンラインでも複数の講演が予定されている。