「いい時間設計」のためにデータサイエンスを活用する
「人口減少で労働人口が足りなくなると言われている中では、働き方改革はバズワードではなく、真剣に取り組むべきものです」と語るのは、コニカミノルタジャパン株式会社 マーケティング本部 データサイエンス推進室 室長の矢部章一氏だ。働き手が今後大きく減り、2033年には現状の業務プロセスを40%程度は改善しないと企業は立ちゆかなくなる。そのための効率化は一気にできるものではないので、今から真剣に取り組む必要があると指摘する。
そのためにコニカミノルタでは、「いい時間設計」を行おうとしている。これは作業の時間を減らし、創造の時間を増やし、さらにプライベートの時間も確保するもの。そのためにデータサイエンスを活用している。矢部氏は2013年にコニカミノルタに転職、2014年からデータサイエンスをプロセスの効率化に活用するため調査を始めた。2015年にはそれをプロジェクト化し、2016年にはデータサイエンス推進室を設立、本格的にビジネスプロセスのイノベーションに取り組んでいる。
矢部氏はまず、人事部に配属してもらい現場業務の調査から始めた。「現場の実際の業務を知るところから始めないと、データサイエンスのプロジェクトはうまく立ち上がりません」と矢部氏。データサイエンス推進室のメンバーも、バーチャルに現場部門に入り込んで、リアルな仕事を経験できるようにし現場の課題を体験するところから実施している。
2年間の準備期間で現場業務を把握して課題を洗い出し、2016年度には見積もり予測や離反予測などの分析モデルを1年間で130本も構築した。「役務収益の予測モデルを使えば、ものの数分で予測ができるようになり、その誤差も1%以内で計算できます」と矢部氏。他にも製品買い換え確率を算出するモデルを現場担当者と一緒に作り、生産性向上を実現している例もある。これらデータサイエンスの取り組みを年間で換算すると、7億円もの効果になっている。
データサイエンティストやアナリストを育成するところから始めた
コニカミノルタでのデータサイエンスへの取り組みは、2014年度が「プランニング」、2015から16年度が「可視化」、2017年度が「標準化」、そして2018年度以降で「最適化」のステップで進めている。
「コニカミノルタにはデータサイエンティストもアナリストもいなかったので、それらを育てるところから始めました。またコニカミノルタでは企業統合もあり、結果的にITシステムの統合があまりうまくいっていませんでした。その部分はSASを使い、データレイクを作り対応しました」(矢部氏)
アナリティクスのためのシステム構築では、まずはER図を作った。それが分析を行うための地図となっているのだ。その上でナレッジ・データベースの構築も重要だった。これはコニカミノルタが分析を行う際に必要となる辞書のようなもので、企業独自の用語が集められ整理されている。「こういったものの準備には、時間がかかりました」と矢部氏。その上で意識したのは、プログラムコードを書かないようにすること。SASを活用してGUIベースで作れるようにし、モデルをどんどん構築して慣れるようにしたのだ。またGUIベースで作れれば、引き継ぎも楽になる。さらにGUI画面を見ながら、現場担当者と一緒にモデルを作れるメリットもある。
次に取り組んだのが標準化だ。これにより全従業員がデータサイエンスのプロジェクトに参加できるようにしようと考えた。現状、データサイエンティストに必要な能力がある人を採用することは簡単ではない。そこで、データサイエンティストに必要なビジネススキル、ITスキル、分析スキルを独自に定義し、それを誰でも学べるようにした。もともとコニカミノルタにはITスキルがあり分析も好きな人がたくさんいたので、自ら学ぶ人は多かった。一方でビジネススキル取得には時間がかかるので、これについてはタスクフォース・ユニットを組むことにしたのだ。