同意が形骸化、有無に関わらずビジネス自体に問題
パネルディスカッション(司会:JILIS山本一郎上席研究員)では、JILIS理事長の新潟大の鈴木正朝教授がリクナビ問題について「本来、個人情報保護は何の目的であるかが考えられていない。取得したデータはユーザー本人のために使われるべきところを、事業のために使われていたということ。これは情報取扱いの本丸であり、リクナビ1社の問題ではない。購入した企業も自覚の有無に関わらずただちに改善すべきだ」と指摘した。
規約における第三者提供の同意に関しては、JILIS参与の板倉陽一郎弁護士から「そもそも(内定辞退率予測データの提供について)学生が同意するわけがないにもかかわらず、同意スキームを組んでいる時点で問題だ。同社は2014年にエントリーシートの大量提出を煽り炎上した。大量エントリーは内定辞退率を上げ、さらに今回企業にはその内定辞退率を販売している。まるで武器商人のようだ」と批判が上がった。
加えて板倉弁護士は「厚労省による行政指導においても『本人同意があったとしても職業安定法違反にあたる』とされている。その背景には、同意しなければ就職情報サービスが享受できないというサービスの寡占状態がある」と説明した。
また、JILISの高木浩光理事も、「リクナビ問題に対するSNSの反応を追っていると『同意を取っていないのはルール違反だが、やろうとしていたことに問題はない』という声があったがそれは違う。説明されたら誰も同意しないビジネスはそもそもやってはダメ。辞退率予測では性別や人種での判断など公平性に欠ける可能性もある」と危惧する。
「優越的地位の濫用」の可能性も
同セミナーで講演した京都大大学院経済学研究科の依田高典教授によると、リクナビ問題は独占禁止法で定義される「優越的地位の濫用」に該当する経済事件性があるという。依田教授は「多くのユーザーは規約をほぼ読んでおらず、さらに読んでいるユーザーの過半数も規約を理解していない」とユーザーの限定合理性に言及した上で「就活市場においてリクナビは企業にとっても学生にとっても両面市場性を持つ不可欠なプラットフォームだ。第三者提供の同意を取っていると言うが、実際の規約は難解かつ曖昧。リクルートにとって学生の個人データは仕入原材料のようなもので、学生の限定合理性を悪用したと言える」と語った。
リクナビ問題から今後の議論に向けて
依田教授は「GAFAに対して規制をかけようとしたら本来保護したいはずの国内のプラットフォーマーが規制に引っかかってしまっている。プラットフォーマー規制を成功させるためにも、無料・両面市場ビジネスのからくりを分かりやすく周知し、市民の理解を得る必要がある」と話し、行動経済学の活用とともにプラットフォーマー規制の4本柱として「ネットワーク効果」、「限定合理性」、「プライバシー権」、「人工知能と倫理」の必要性を謳った。
また、同セミナーに登壇した労働法を専門とする倉重公太朗弁護士によると「内定辞退率の問題は、新卒の価値に重きを置き一括大量採用し「採用予定数」を設定する日本型雇用独自の概念に起因する」という。その上で「元々職業紹介は国しか行ってはいけなかった。厚労省の指針は情報提供も職業紹介の境も曖昧。HRTechを使う以上、事業者は何を守らなければならないのかはっきりさせるべき」と勧めた。
さらに、高木理事は2020年の個人情報保護法改正に向け「データによる人の選別への意識が希薄」「個人情報とは何かへの誤解」や「プライバシーポリシーが読まれていない」など現行の個人情報保護法の課題を指摘し、「法目的や個人データ定義の明確化、利用目的を事業者単位からサービス単位へ変更する」などと改正に向けた提言を行った。
また、構造上、ベンダー側がcookieポリシーの明示などをユーザー企業に指示することが難しいという現状について鈴木教授は「GDPRでいうところのコントローラー(ユーザー企業)に当たるのは、今回であれば求人企業。コントローラー概念を個人情報保護法に入れた方がいいかもしれない」とした。