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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

性能評価の趣旨を理解していないベンダ

ベンダの理解不足は誰のせいか

 一方のITベンダ側にも言い分はあります。実は、ユーザは性能検証の方法にダメ出しをしたきり、後はなんの対応もしなかったというのです。やり方が間違っているのなら話し合う等すればよかったところですが、そうしたことはなく、ただ時間だけが過ぎていくという状態だったようです。

 しかもITベンダは性能評価の為の環境づくりや説明会開催の準備までしていたのですから、ダメ出しだけをしておいて後は何もしないというユーザの態度は、あまりにも身勝手であり、それこそがプロジェクトを破綻した直接の結果である。つまり契約解除の帰責事由はユーザにこそあるというのがITベンダ側の言い分です。

 見当はずれな性能検証方式を持ち出したベンダとダメ出し後ベンダを無視したユーザ、さて、この責任はどちらが負うべきなのでしょうか。

(東京地方裁判所 平成31年2月4日判決より)

 (本件の契約条件としては)成果物の納入後,本件システムがユーザの要望した本件仕様に合致するかについて検収を行い,その結果,瑕疵が発見された場合には,ベンダがこれを修正すること(略)なども定められている。(中略)これらの事実によれば,ユーザとベンダは,本件システム開発契約締結の時点で,○○の機能は,ユーザが要望する機能と概ね合致しているという認識を有しており,契約締結後に,いわゆるフィット&ギャップ分析等の性能評価を行うことを予定していなかったと認めることができる。

(中略)

 そして、ITベンダはユーザから本件システム開発の一時停止を要請され、○○の性能評価の実施を求められたことに対しても同意し、(中略)ベンダ側の準備を完了させ,ユーザにおいて性能評価を実施できるインフラの整備を完了すれば,ユーザが希望する性能評価を実施できることや,説明会の準備もあることなどを伝えていたにもかかわらず,ユーザは,(中略)ベンダは性能評価の趣旨を正しく理解していないなどと述べた上,(中略)本件システム開発を完成させて納入することを待つとのみ回答し,その後,何の対応もしなかったものである。

(中略)

 本件システムが完成しなかった主な原因は,本件システム開発の一時停止を要請し,本件システム開発契約締結時に予定されていなかった性能評価を求め,ベンダにその準備をさせたにもかかわらず,その後,何の対応もしなかったユーザにあり,ベンダには帰責性はないというべきである。

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ベンダはITのプロだが業務は素人

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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