2019年10月、SAP HANAという新たなプラットフォームを核にSAPのビジネスのクラウドシフトを牽引してきたビル・マクダーモット氏がCEOを退任した。SAPでは即日、共同CEOにジェニファー・モーガン氏とクリスチャン・クライン氏を指名する。そして2020年4月にはモーガン氏が退任し、クラインCEO体制での新たなSAPがスタートした。ちなみにマクダーモット氏はその後、SaaSベンダーとして日本でも頭角を現しているServiceNowのCEOに就任している。
SAPのソリューションで地球規模の気候変動の問題解決に貢献できる
新生SAPをリードするクライン氏は、39歳という若きCEOだ。オンラインイベントとなったSAPPHIRE NOW 2020の基調講演で同氏は、「新型コロナウイルスによる世界中を巻き込むパンデミックで企業は予想外の危機に直面しています。これに対処するためにデジタル変革は企業にとっての選択ではなく、必須なものになりました」と言う。
企業は生き残るために急ぎ改革に取り組まなければならず、新たな収益源が必要になっている。個々のニーズに対応するパーソナライズ、サブスクリプション型の新しいライセンスモデル、良好な顧客体験の提供などが、新たな収益源となる可能性がある。
一方で現状企業が重視すべきが、人々の健康であり安全性だ。それらを確保することで、ビジネスの継続性を担保する必要がある。その上で、「今後は気候変動などにも備えておく必要があります。デジタルテクノロジーを活用することで、二酸化炭素の排出量も大幅に減らすことができます」とクライン氏。ビジネスプロセスを効率化してきたSAPであれば、企業における二酸化炭素の排出量削減も実現でき、地球規模の気候変動への対策にも貢献できると言うのだ。
SAPのようなIT企業が開催するカンファレンスイベントでは、たとえば元米国副大統領のアル・ゴア氏をゲストに招き、彼の口から気候変動に警鐘を鳴らしてもらうことは時々ある。これによりゴア氏が進める地球環境の保全活動について、企業の社会貢献活動の一環として支援する立場を明らかにするのだ。
一方、今回のようにCEO自らが地球規模の気候変動に言及し、それに対処する方法としてSAPのソリューションが活用できるとまで言うのは珍しい。「ビジネスの成功と同時に、サステイナビリティが重要です。企業はコミュニティの一員として、未来に地球を残せるかを考えなければなりません。我々は次世代に重荷を背負わせたくはありません」とまでクライン氏は言う。これはクライン氏が、まだ小さい子どもたちの親という立場にあるからこその発言でもあるのだろう。

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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