発注者の信義則違反とは?
今回お話しするのは、IT開発でもよく見られる契約と発注者の信義則違反に関する事件です。"信義則違反"については、以前にもこの連載で取り上げました。たとえば、受注を望むベンダーに対して「必ず発注する」などと口頭で伝え、相手に契約を期待させた上で、実際に作業などもさせておきながら、結局は発注をしなかったような場合がこれにあたります。
ベンダーが、いずれは契約があることを信じて人件費等の先行投資を行って作業を行った場合には、発注者に対してその損害の賠償を裁判所が命じることがあり、これを“発注者の信義則違反”と呼んでいます。
ただ、この信義則違反については、それを証明することが、なかなかに難しいのも事実でしょう。なにせ相手を信じるか否かは人の気持ちの問題であり、また相手を信じ込ませてしまった原因が形に残らない“口頭”の意思表明である場合も多いからです。
口頭ベースでは、正確に覚えていない場合も多いですし、同じ言葉でも、それを発した人や状況、それまでの経緯や双方の関係などによって、その意味合いが異なる場合も多いです。ある発言が信義則違反に当たるかどうかについては、明確な基準がないように思えます。
この事件では、どのようなポイントで信義則違反の有無が判断されたのでしょうか。実は、今回はIT開発に関する判例ではなく、ゲーム機の製造に関するものではあるのですが、この連載の読者に多いユーザー企業つまり発注者側の方が、(悪意はなくとも) 信義則違反をしてしまわないために、また受注者側のベンダーの方が、うかつに作業着手をしないようにという考えで取り上げました。では、内容を見ていきましょう。