大阪をフルリージョン化しますます顧客のクラウド化を加速するAWS
「3月2日、この日付はAWSにとって、また日本のクラウドの歴史を考える上で非常に重要な日付です」と言うのは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏だ。2011年3月2日、今から10年前にAWSが東京リージョンを日本で初めてフルリージョンとして開設した。10年前には、わずか2つのAvailability-Zone、12のサービスから始まった。その後の10年間で、AWSは顧客の声に耳を傾けて進化を続けた。たとえば2018年には東京リージョンにAvailability-Zoneを追加し、大阪ローカルリージョンも開設した。2012年に160だった新機能開発は、2020年には年間で2757へと大幅に増加している。
これまでの10年間の内、2020年はAWSにとっても特別な年となった。新型コロナウイルスのパンデミックの影響で人々の生活様式、ビジネスを取り巻く環境が大きく変わり、結果的にクラウドのもたらす価値が改めて重要なことを知らしめたのだ。クラウドならスモールスタートができ、拡張性がある。マネージドサービスですぐに使える。必要な時に必要なものだけを利用できるクラウドは、急激な環境の変化をもたらしたコロナ禍で大いに役立ったのだ。
長崎氏は、現状、クラウドを活用するための人財がいるかいないかが企業にとって大きな差になると指摘する。そのため、AWSではクラウド人材の育成に積極的に取り組んでおり、AWSのオンライントレーニングを受講した人は既に10万人を超えている。AWSの認定資格者数も2019年から2020年で57%増と大きく伸びている。
これら状況を踏まえた上で、AWSの2021年の戦略としては、まずは国内のクラウドインフラの拡充をする。昨年早々にフルリージョン化を表明していた大阪リージョンは、3月2日に3つのAvailability−Zone構成でローカルリージョンから昇格した。今後は順次、東京リージョンと同様な幅広いサービスを大阪からも提供する。大阪がフルリージョンとなったことで「単一データセンターでは実現できない高い可用性を実現できます」と長崎氏は言う。
大阪リージョンにより、西日本地域において低レイテンシーでAWSの各種サービスを利用できる。その上で国内に閉じた形でのマルチリージョン構成が可能となり、災害対策を含むミッションクリティカルなシステムにも対応できる。現状ではAmazon WorkSpacesなど、大阪リージョンではまだ利用できないサービスもある。今後顧客の声を訊きながら、順次サービスを拡充する。
もう1つAWSが2021年に力を入れるのが、顧客のクラウド移行を加速させるための支援体制だ。クラウド移行の課題に対し「AWSは顧客と共に併走してサポートします」と長崎氏。AWSを使ってもらいながら、顧客により良いサービスを積極的に提案できるようにする。実際、大規模なワークロードをクラウドに移行する例が増えており、そのためのノウハウや人材の確保で苦労する企業の課題を解消するために、「移行支援プログラム(Migration Acceleration Program:MAP)」を提供している。MAPはプロフェッショナルなコンサルティングサービスをAWSが、あるいはパートナーと一緒に提案するものだ。他にも業種別なアプローチにより、業種特化したワークロードに最適化した支援サービスなども提供する。
ここ最近はハイブリッドクラウド、マルチクラウドなどが話題で、パブリッククラウドだけを使うのではなく、さまざまなクラウドの利用形態が注目されている。実際AWSもAWS Outpostsなどハイブリッドクラウド、エッジコンピューティングを実現するソリューションを提供している。しかしながらAWSの基本的なスタンスとしては、ハイブリッドクラウドは最終的なクラウド化、AWS化のための途中の過程だ。「どれくらいの期間かは分かりませんが、今オンプレミスで動いているかなりのワークロードは、AWSに、クラウドに移行すると思っています。ただしそれまでの間、ハイブリッドという状況が必要なことを、AWSは理解しています。そのため引き続きハイブリッドクラウドも積極的に支援します」と長崎氏は言う。
AWSのハイブリッドクラウドは、AWSのクラウドサービスを顧客の近くに持っていく方策の1つだ。サービスをより顧客の近くに持っていくことで、低レイテンシーで利用したいとの要求に応える。そのため他社が進めるようなオンプレミスとAWSのクラウド上のシステムを緩やかに連携させるようなハイブリッドクラウドの形とは、異なるものになるだろう。これは市場で圧倒的な強さを誇るAWSだからこそとれる、ハイブリッドクラウドの戦略と言える。