大企業のセールスDX浸透には、「人を活かす」育成の仕組みも必要
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押久保(EnterpriseZine) 実際にセールスDXの階層をあがっていくために、大手企業はどのような取り組みをしていくべきでしょうか。中小企業のようにトップダウンで一気に進めるということは難しい中、解決策はあるのでしょうか? 福田さんは、大手企業が導入するSaaSを数多く支援されていますが、提案する側から見て、どのように感じられますか?
福田氏(ジャパン・クラウド・コンサルティング) 「大企業の壁」というのはありますね。たとえば、SaaSの導入によって現状よりもかなりコスト削減できる提案をしたとしても、「福田さん、コスト削減できるのはわかったけど、その分余った人を削減できないんだよ」と言われてしまう。人を減らせないから、コスト削減ができない。アメリカだとこれがシンプルで、インドでやったほうがコスト削減できるなら、インドでやりましょうとなる。
徳田氏(NTTコミュニケーションズ) これはうちも「あるある」ですね。だからこそ、問題は「人」をどのように教育し、マインドや手法の変化を促していくかということ。たとえば、営業職の教育では、多くの場合、先輩に付き添ったOJTの中で最初の経験を積むわけです。しかし、それだと付いた先輩のやり方に染まってしまう懸念もある。
宮田(SalesZine) 新入社員は上司や先輩を選べないでしょうから、成績の良い先輩に付いた新人が成績をあげられ、そうでない場合は成績をあげられないということもありそうです。良い意味での標準化は望めませんね。
徳田氏 福田さんの著書である『THE MODEL』のようなメソドロジーのようなものが、これからの日本企業にも必要だと思います。属人的なままの営業では、その人が辞めてしまえば会社に残るナレッジは極めて少ない。成果起点の育成サイクルをつくり、ハイパフォーマーのナレッジを、いかに会社に残していくのか、これが重要です。
福田氏 メソドロジーはもちろんですが、成果を出した人がきちんとキャリアの次のステージに上がって新しいチャレンジに取り組めるというようなフェアな仕組みなども、会社には求められていくでしょうね。年功序列などではなく、成果を出した人に正当な評価が与えられる。一方で、多くの新卒を採用する日本の大手企業ならではの、手厚い研修・育成制度には、私自身もキャリアスタートの時点で非常に助けられましたし、重要な文化だとも思っています。
徳田氏 おっしゃるとおりですね。そのうえで、社員側は自分の頭で状況に応じてどのような顧客接点を生み出していくべきか? を考えられるスキルを備えてもらわなくてはいけない。そこで求められるのがオリジナルの営業育成プログラムです。弊社ではいくつかの取り組みをしています。
NTTコミュニケーションズが挑む「ハイパフォーマー」の拡張分析
宮田 たとえば、どのような取り組みでしょうか?
徳田氏 営業のノウハウを体系化するため、好成績を収めるハイパフォーマーにインタビューして情報を収集・分析しています。その結果、営業アドバイザー機能による拡張分析(Augmented Analytics)の実現を目指しています。
実際に分析してみると、想定外の結果が出てきます。そのうちのひとつをご紹介します。人の感情に寄り添う人情系タイプのハイパフォーマーと、数字で詰めていく冷静沈着タイプのハイパフォーマーがいたとします。営業の手法としてはまったく違う2タイプですが、同じ行動をとっている部分があったんです。
宮田 タイプは違う営業担当者の手法に共通点がある。これは、気になりますね。
徳田氏 具体的には、2タイプとも最初のお客さまとの面談では「手ぶら」でいくことがわかりました。相手の課題を傾聴するために、あえてそうしているようです。ヒアリングのないまま、資料をつくるとなると、どうしても自分の思い込みや決めつけが入ってしまう。だからあえて「手ぶら」でいき、話を聞くことに専念するようなのですね。こうした行動のデータを分析し、他の営業職の人間が「自分もやってみよう」となれば、小さな成功体験が1人ひとりに確実に蓄積されていくのではないでしょうか。
宮田 ハイパフォーマーのインタビュー結果や行動データをもとに、それぞれの営業職の人へアドバイスをする。これが自動化できると、新人もベテランも参考になりますね。
徳田氏 パターンをAIの機械学習で分析しています。まだ外れることも多いですが、徐々に精度はあがっていくでしょう。社内の営業300人くらいでPoC(実証実験)をしているのですが、9割の社員が有用だと答えてくれました。
宮田 営業という人の力が特に重要視される領域で、ハイパフォーマーである先人たちのデータが蓄積され、それをベースにアドバイスが行われ、結果として新しいハイパフォーマーを生み出す。そしてそのデータもまた組み込まれて進化する。これは面白いですね。
ボトムアップだけで組織は変わらない トップの変化に現場も備えること
宮田 営業というナレッジを会社に蓄積していくことの重要性、またそのナレッジを社員にどう活用していくのかが見えてきたように思えます。このような現場が利益を実感できる取り組みが進んでいくことが、大企業のDXが実現に必要不可欠なのだと感じました。
まだお話は尽きませんが、時間となってしまいました。最後に、おふたりから大手企業でDXに取り組む営業部門・IT部門・企画部門へのメッセージをいただけますか。
福田氏 まず大前提として、企業を大きく動かすためには、トップ自身が動く必要があります。IBMを復活させたルイス・ガースナー会長兼CEOの話は『巨像も踊る』(日本経済新聞出版)などの本でも多くの人が知るところです。トップのリーダーシップで組織は変わることができます。
厳しい言い方になるかもしれませんが、逆にボトムアップだけで変わった組織というものはあまり見たことがありません。トップが変われば、社員も変わることが求められます。私自身、長らく新しいツールや考え方を日本企業に取り入れていくことを生業としてきましたが、どうしても変化には時間がかかります。中堅層の方も5~10年のスパンで変化に向き合っていただきたいですし、経営層・管理職の方々は「自分たちの代で波風を立てたくない」と考えず、積極的に変革に取り組んでもらいたい。そういった方々を応援していきたいです。
徳田氏 この記事を読んでいる方の中には、30代、40代の中堅層も多いかと思います。大手企業の中で、組織を変えたい、営業を変えたいと思っている人たちと、つながり、一緒に考え、動いていきたいです。我々の「セールスDX」の取り組み自体も、まだまだ道半ばですが、失敗談なども含めて積極的に情報を公開していこうと考えています。
また現場の方にも、トップがリーダーシップを発揮したときに、すぐに対応できるスキルや考え方を持っておけるように、これらの情報発信がヒントとなれば嬉しいです。
宮田 立場は違えど、日本企業の力、ひいては人材の力を伸ばしていくためにテクノロジーは有効な手段であるとお考えのおふたりと座談会を実施でき、非常に勉強になりました。
この輪を広げていくべく、「セールスDX研究所」でも今後さまざまな取り組みを進めていければと思います。本日はありがとうございました!