インターネットの登場によって激変した旅行ビジネス。日本における第一人者として、JTBは積極的なIT活用による新しい仕組みづくりに取り組んできた。その索引役としてCIOを務める志賀 典人氏は、「相反する利害を取りまとめ、組織として最適な“解”を導くことが私の役割」と語る。その強力な推進力の秘訣と、今後JTBが展開するIT戦略の方向性について伺った。
ITと現場、経営を統合し受益者負担制度を導入
―現在、常務取締役として経営に携わりながら、CIO(最高情報責任者)として任務に当たられていますね。経営企画部長やIT企画担当などを兼任されるようになった経緯についてお話しいただけますか。
以前から、社内においてはITが経営の主軸になると認識されていましたが、インターネットの普及とともに、単に業務改善のためではなく、“攻め”のツールとして積極的に取り組むべきという機運が高まっていました。
当時、支店や代理店などを対象とした販売システムである「TRIPS」が稼働し、その上でBtoCのシステムが動いていたのですが、さまざまな矛盾や不具合が生じて問題となっていたことも大きいでしょう。
そこで、分散したデータベースをリアルタイムに連携し、複数業務を一本化しようという計画が進んでおりましたが、経営計画との平仄やコストコントロールの重要性を、当時の社長であった現佐々木隆会長が強く問題提起されました。すなわち、この当社の根幹ともなるシステムを実現するためには、ITと経営が密接に統合し、連携し合わなければならないと考えられたようです。
そうした経営判断のもと、経営企画を担当していた私がIT部門も兼務することになり、当時CIOだった技術部門出身の佐藤正史が株式会社JTB情報システム(JSS)の社長となって、新しい体制で提携していくことになりました。
しかし、しばらくしてみると、それでもうまくいかなくなってきたんですね。たとえば、ユーザー側は要求するばかりで、システム開発を担当するJSSはベンダーとして要求のままに応えようとする。そのため、過剰なコストやスケジュールの遅れなどの問題が生じていたのです。
そこで「経営・ユーザー・IT部門」の三者が当事者として、ともにグループ会社のIT戦略を考えるべく「IT戦略委員会」を立ち上げました。メンバーは、JSSのほか株式会社i.JTBといったeコマース会社、各旅行事業会社の役員などのユーザー部門、そして商品企画や営業企画部門からも参加し、総勢21名によって構成されています。
そして、それまでITシステムの運用会社的な位置づけだったJSSがその事務局の中心スタッフとなって主導し、原則としてユーザー部門の中から選任した「プロジェクトオーナー」にプロジェクトの進捗やコスト管理の責任までを負ってもらい、“受益者負担制度”も盛り込みました。
結果、JSSはITによる効果を現場や経営的視点から捉えることができるようになり、ユーザーも要件を言いっぱなしではなく、費用対効果や実現性を強く意識した要件設定ができつつあります。また、スケジュールに対するシビアさや情報の伝達スピードの向上など、様々な面で改善されたように思います。