なぜ香川大学がDXなのか
本記事の公開の同時期に香川大学にて「Kadai DXシンポジウム」が開催されました。テーマは「大学のDX、地域のDX」で、副題は「かだいにDXなんてできるの?」(「Kadai」「かだい」は、香川大学の愛称)。同大学では、「香川大学デジタルONE構想」を掲げて推進中。さらに、企業がSDGsに取り組むように地域課題を解決する取り組みにもチャレンジしています。
旗振り役は、香川大学創造工学部創造工学科 八重樫理人教授。創造工学部は、2018年4月に開設されたばかりの新設の学部で「次世代型工学系人材」の育成を目指しています。これまでの「技術開発・ものづくり中心」人材の育成から「未体験の価値を生み出せる」次世代型工学系人材の育成にフォーカスをしています。少子化が進む現在、大学教育の新たな価値を問われる中で東名阪の有名私立大学や国公立大学以上に生き残りをかけた大学教育の魅力づくりが熾烈となっています。そんな中で専門のソフトウエア工学を基軸にデザイン思考やリーンスタートアップの考え方を机上の理解だけでなく、地域課題や大学サービスをテーマに自らアイデアソンやハッカソンを実践し、学内の様々なサービスも最近注目のノーコード・ローコード開発手法で学生が開発しています。さらに大学内にとどまらず、地域企業はもちろん、大企業とのオープンイノベーションの取り組みにもチャレンジしており、企業からすると喉から手が出るほど欲しい魅力あるDX人材(=即戦力)を育成しているのです。
FUJIHACKとの運命的な出会い
八重樫先生は、まさに香川大学のデジタル変革者と言えますが、どのような人物なのでしょうか。サラリーマン家庭に生まれ(お父様は自動車関連のエンジニア)、静岡県で過ごした高校時代には名の知れたサッカー少年だったそうです。東京の私立の工学系大学に進みソフトウエア工学を学び始めた頃、研究者を志すキッカケとなるレポート『The CHAOS Report(1994)−The Standish Group』[※1]に出会います。
このレポートによってソフトウエアの開発では、実に16.2%しか成功したプロジェクトがないことを知ります。八重樫先生は、「これは大変な世界だな」と思う反面、「ソフトウエア工学にはまだまだ研究しなければならない部分が多い」と感じ、この分野の研究者の道を歩み始めます。
まだ駆け出しの研究者だった頃、ソフトウエア工学関係の学会の研究会で自身の研究について発表をおこなったところ,民間企業のソフトウエア開発者から、「現場も知らないくせにそんなこと言うんじゃない」と辛辣な言葉を掛けられます。八重樫先生は、「そりゃ、そうだ。自分でもソフトウエアを開発しよう」と、それ以来開発の実践に重きを置くようになります。さらに「ソフトウエアも使われてナンボの世界」ということで開発したソフトウエアの製品化にも携わるようになります。
やがてソフトウエア/情報システム開発を成功に導くような研究がしたいと強く思うようになり、「お客様からきちんともれなく正しく要求仕様を抽出する技法」「設計書に基づいて開発を円滑に進めるための技法」を自身の研究テーマに設定します。
そんな八重樫先生と筆者が初めて出会ったのは、2015年、全国の大学のシステム関連の研究者を集めた研究会で筆者が講演した時でした。既に社内でデジタル変革(DX)の取り組みを試行錯誤で実施していた筆者の話に恐らく参加者の中で一番若手であった八重樫先生が食いついて来ました。研究会の後、懇親会でも意気投合する中で、、ハッカソンやイノベーション創出を肴に杯を酌み交わし「一度香川大学にいらしてもらえませんか?」と声をかけていただいたのです。
その場の勢いで、ちょうどその日に開催されていたFUJIHACKのスタッフTシャツを記念にプレゼントしました。このFUJIHACKのTシャツは、現在も八重樫研究室の壁に飾られているようですが、この出会いをキッカケに彼の研究テーマが加速し、さらには大学全体のデジタル変革(DX)へとつながったのです。