クラウド移行にともなう“3つの課題”
「クラウド移行には『コストの増大』『セキュリティの担保』、さらに『サステナビリティへの対応』といった課題があります」と話すのは、インテル セールスマーケティンググループ プリンシパルエンジニアの松田貴成氏だ。クラウドにおける課題は一様ではなく、利用目的、成熟度、業務内容や業界規制など、企業の置かれている状況により異なる。これらクラウドを利用する上で複雑化する課題に対し、同社はITインフラの面からどのように支援できるのか。
AWSなど主要クラウドベンダーとの協業で、世界中で利用可能
インテルは、Amazon Web Services(以下、AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloudといったメガクラウドベンダーとのパートナーシップで、すべてのリージョン、カントリーでインテルベースのインスタンス(仮想サーバー)が利用できることが課題解決の大前提になると考えている。「インテルベースのインスタンスなら、クラウド事業者や地域を問わず使うことができます。たとえば災害対策で他国のリージョンを利用したいと考えた際に『対応するインスタンスがなく選択できない』ということがありません」と松田氏。
また国内外の主要なクラウド事業者のいずれにおいても、インテルベースのインスタンスは利用できる。このようにインテルベースのインスタンスであれば、様々なパブリッククラウドからプライベートクラウド、オンプレミス、エッジに至るあらゆるところで利用でき、利用者は幅広い選択肢の中から目的や用途に合ったものを自由に選ぶことが可能だ。
コストはインスタンス単体ではなく、トータルで考える
オンデマンドでリソースを追加できる柔軟性は、クラウドの大きな特徴だ。簡単にリソース追加ができるのは便利だが、利用が増えればコストも増加する。経営観点では、迅速かつ柔軟にリソースを追加できる利便性と同時に、コスト最適化も求めるはずだ。「クラウドにおけるコスト削減は単純ではありません。単に安価なインスタンスを選べば良いのではなく、トータルでコストの最適化を考える必要があります」と松田氏は言う。
たとえば、現状ではサービスに対するPCやスマートフォンからのアクセスは、セキュリティを担保するために通信をHTTPSにして暗号化するのが当たり前だ。暗号化すれば、アプリケーションで処理する際には復合化する必要がある。これらの処理に時間がかかると、企業のクラウド利用の利便性が損なわれてしまう。
同社の「第3世代インテル Xeon スケーラブル・プロセッサー」には暗号化、復合化処理を高速化するアクセラレーター機能がある。そのため「新しいインテル Xeon プロセッサーを採用するだけで、価格パフォーマンスが約15%改善でき、別途ソフトウェアを使うことで暗号化、復合化の処理が10%以上も性能改善できます。またインテルのソフトウェア技術も活用すれば、メールを暗号化するTLS接続も第2世代インテル Xeon スケーラブル・プロセッサーと比べ4.2倍の性能となります」と松田氏。セキュリティの担保と性能の向上を、暗号化アクセラレーターで両立できるのだ。
つまりインスタンスの追加費用が発生したとしても、新しいインテル Xeon スケーラブル・プロセッサーのインスタンスを選択してワークロードを最適化できれば、インスタンスを増やすことなく安全性も性能も担保できることとなる。利用するユーザーが多く、処理するサーバーが多いような環境では、その効果はより高まるだろう。
DXを進める中では、たとえばAIや機械学習技術を用いた予測、推論を行うことも多い。その場合、予測モデルの構築にはGPGPU(GPUによる汎用計算)を用いた機械学習専用の環境を用意するだろう。一般にGPGPUはAI、機械学習の学習フェーズにおいて高い処理性能を得られるが、推論フェーズに応用すると費用は高い。これに対し、インテル Xeon スケーラブル・プロセッサーではCPUによる機械学習推論を高速化する機能を搭載している。
この機械学習処理の高速化機能により、インテル Xeon スケーラブル・プロセッサーを利用するAWSの「Amazon EC2 DL1インスタンス」は、現世代のGPUベースのEC2インスタンスと比べ最大で40%の価格パフォーマンスを発揮。「これはインテルが主張しているのではなく、AWSのサイトで明らかにされています[1]。費用が高くなる専用インスタンスではなくインテル Xeon スケーラブル・プロセッサーで推論することが、コスト削減に貢献できる例です」と松田氏は言う。
[1] 「深層学習モデルのコスト効率の高いトレーニングのための Amazon EC2 DL1 インスタンスのご紹介」(AWS)
最新プロセッサーはメモリー暗号化機能を搭載
第3世代インテル Xeon スケーラブル・プロセッサーは、1つのCPUで最大40コア、ハイパースレッドで80vCPUが使える。第2世代よりも拡張されたメモリーインターフェイスを持ち、データベースなどのメモリーに特化したアプリケーション処理の高速化も図られている。さらに前述の暗号化、復合化処理のアクセラレーター機能があり、加えてインテル ソフトウェア・ガード・エクステンションズでは、メモリー内に存在する特定アプリケーションのコードとデータを隔離するハードウェア支援型メモリー暗号化機能もある。
これで「仮にOSがハッキングされても、ユーザーのアプリケーションとデータを守れます」と松田氏。これらプロセッサーに搭載されたセキュリティ機能は、Web系サービスのシステムインフラのような秘匿データを取り扱う処理に有効なソリューションとなっている。
エネルギー消費の削減でサスティナビリティに貢献
「最新プロセッサーを使ったインスタンスの利用だけでもメリットをもたらしますが、さらにユーザーのワークロードごとに最適化技術を適用し、全体最適化を図ることが重要です」と松田氏。それによりトータルでのコスト削減、エネルギー消費を削減するサステナビリティへの貢献ができると言う。
さらに、ビット操作を効率化する「インテル アドバンスト・ベクトル・エクステンション 512(AVX-512)機能」を使うことで、圧縮操作などが加速化する。たとえばクラウド上でよく使われる「Apache Kafka」などのメッセージングサービスにおいてメッセージを圧縮できるため、単位時間あたりのスループットが向上。IPC(Instructions Per Cycle:クロック当たりの命令実行数)も、第2世代より20%向上しているという。これらの機能や性能の向上で、たとえばAWSは、前世代の「EC2 C5 インスタンス」に比べて第3世代の「EC2 C6i インスタンス」ではプライスパフォーマンスが15%向上する。これも、AWSのサイトに明記されている[2]。
また、ソフトウェアの最適化の例として松田氏は、Apache Sparkベースのデータ活用プラットフォームの「Databricks」を挙げた。超高速検索エンジンPhotonを、DatabricksとインテルのエンジニアがAVX-512を用いて開発。これを使うことで最大で3倍の価格性能、6.7倍の性能向上が図られている。これらは、Azure上で実際に検証した結果だ。
[2] 「Amazon EC2 C6i インスタンスのご紹介」(AWS)
インテルプロセッサーの“本当の能力”を引き出す支援
インテルではクラウドサービスプロバイダー、マネージドサービスプロバイダー、ISV、SIの企業とエコシステムを作り、その協業体制で顧客に最適なITインフラを提供できるようにしている。そして「インテルではIaaS、PaaS、SaaS、顧客の独自アプリケーション、オンプレミス、クラウドのすべての環境をサポートします。各企業とは営業、マーケティング的なものはもちろん、技術的な支援も揃えています」と松田氏。
この技術的な支援には「ワークショップ」「最適化」「自動化とツール支援」という3つのカテゴリーがある。ワークショップではインテルプロセッサーや製品の概要をまず把握してもらい、ソフトウェア戦略についても伝える。内容は、顧客のクラウド化のフェーズや課題に応じカスタマイズしているという。また、顧客がオンプレミスやクラウドで利用しているサーバーやアプリケーションのリストをもとに、それらを定量的に見てどれくらいコスト削減が可能かなどもコンサルティングする。
最適化では、既存のアプリケーションを評価し、リフト、あるいはクラウド化を機にリタイアさせるなども提案する。さらにクラウド化にともなうデータベースの構築および最適化、AI活用環境の最適化、IaaS、PaaS、SaaSの最適な選択の話もできる。IaaSについては、インテルではOSのレベルから最適化が可能だ。PaaSでは「利用する際にどのようなパラメータ設定にすれば最適に動くかを提案できます。さらにどのインスタンスをどの設定で利用すれば、使いたいPaaSが最適化できるかも支援できます」と松田氏は言う。
他にもインテルでは各種ベンチマークを取得しており、その手法も顧客やパートナーと共有する。これは、クラウドにおける性能向上の方向性見極めなどに活用できる。他には最新のアクセラレーター技術や今後プロセッサーに統合化される機能の情報も適宜共有し、コストを最適化のための選択肢を見つけるサポートもする。
自動化とツール支援では、たとえば「Migration Advisor」を提供している。これを使って診断をすることで、モダナイゼーションを含んだクラウド移行のアドバイスが可能となる。Cloud Optimizerでは機械学習技術で統計情報を診断し、コスト効率の高いインスタンスの推奨などができる。Workload Optimizerは買収したGranulate社のツールで、Java、PHP、Python、Go言語などのプログラムのワークロードをモニタリングし、結果を機械学習してワークロードを動的に最適化できる。他にもコンパイラーなど、クラウドを活用するのに欠かせないツールを提供している。
これらの支援には、インテルのIT部門に所属する4,400人のメンバーが、世界中の社員12万人の業務を支え、53ヵ国138拠点の管理も担ってきた経験が生かされているのだという。
「インテルではPCやスマートフォン、ワークステーションなど世界中で25万台のデバイスを管理しており、そこから生まれる膨大なデータをオンプレミス、ハイブリッド、マルチクラウドで効率的に運用しています」と松田氏。これらの仕組みの構築、運用で培った経験を生かし、ノウハウ、情報を適宜共有して、顧客のクラウド活用の支援をしているのだ。
また同社には、約1万9,000人のソフトウェア技術者がいる。その多くはソフトウェア企業のサポートをしており、各社のソフトウェアをインテルプロセッサーに最適化するための支援をしている。さらにオープンソースソフトウェア(OSS)にも貢献しており、Linuxカーネルについては、No.1の企業コントリビューターでもある。他にも50以上のOSSプロジェクトに貢献し、コード開発だけでなくインテルプロセッサーでOSSが最適に使えるよう支援している。
一連の技術的な支援は一部有償のものもあるが、インテルプロセッサーを利用する顧客やパートナーが一定の条件を満たせば、基本的に無償で利用できる。松田氏はこれら様々な支援を通じて「インテルプロセッサーの本当の能力を知ってほしい」と言う。
インテルでは、今後も新しい技術をどんどん投入する。将来的にはWeb3.0のための技術なども出てくるだろう。それらを最大限に使うことで、よりクラウド環境にワークロードを最適化できる。プロセッサー能力を最大限に引き出せれば、CPUのフットプリントを小さくでき、効率化を実現してコスト削減が可能だ。削減した費用は、ぜひDXのための新たな投資に回してほしいと付け加えた。