ビジネス変革に求められる戦略的データマネジメント
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や 社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
これは、経済産業省による『DX推進指標』における「DX」の定義[1]である。
ビジネス環境の激しい変化と言っても、さまざまな事柄が挙げられる。たとえば、労働人口問題、カーボンニュートラル目標、市場のグローバル化、消費者ニーズや価値観の変化などがそうだろう。
労働人口を取り巻く環境を見ると、2030年代には世界的に生産年齢人口比率が低下、それを補うためのAIやIoTテクノロジーの発展が期待されており、内閣府の『2030年展望と改革タスクフォース報告書』などでも論じられている。さらに日本では、少子化による急速な人口減少と団塊ジュニア世代の高齢化によって高齢者人口が最大化する「2040年問題」が現実味を増しており、昨今の社会状況から見ても業種業態問わず放置できない状況である。
労働人口問題だけではなく、温室効果ガス(GHG)排出量削減など世界的な課題がある中、現在多くの企業は変革を迫られており、デジタルやAI、IoTといったテクノロジーの活用と、その原動力となるデータの管理・活用を避けて通れない。
また、テクノロジーとデータの適応範囲は、黎明期であれば、部分的な範囲で十二分に効果があった。しかし、発展期を迎える中では「1つの業務やサービス」「1企業内」といった枠に閉じた環境ではなく、各企業や社会インフラが結びついていく環境(データプラットフォームやデータエコシステムなど)での実現が求められる。
こうした環境下では、“今までの枠を超えた”データ流通が必須となる。そして、今まで1システムや1企業に閉じていたデータが、従来の枠を超えるときには想像しなかった問題が発生する。
この「データの枠を超える」際に発生する問題点について、個人データを例に解説すると、
- あるサービスで個人データを取得し、そのデータに会員IDを採番して、顧客にサービス価値を提供していた
- 自社内の他サービスと連携することになり、会員IDの統合が必要となった。しかし、それぞれのサービスで、会員登録・ID付与をしており、氏名や生年月日などの情報のみでは正確に個人を特定することが困難であった。そのためIDの統合が簡単にいかず、データ統合に多大な時間とコストを要することになり、サービスの連携がなかなか進められなかった
- ようやく連携できたのち、今度はグループ企業との会員サービスの連携が求められた。しかし、各社の会員規定などが異なっており、情報セキュリティや個人情報取り扱いに関する規定などの見直しから各会員への承諾など、時間を要する整備が必要となった
- そして、サービスの発展とともにグローバル企業との連携が必要となる。各国の法的な対応、言語が異なるデータとの連携を整備するため、共通定義など解決しなければならない事項が複雑化し、対応が進まなくなった
といった具合である。
この例ではシンプルに表しているが、データの枠(コンテキスト=文脈、背景、前後関係)が広がると従来の定義では対応できず、データが上手く利用できなくなり、ビジネスの拡大に対応できなくなることがよくわかる。
つまり、環境変化へ対応していくためには、戦略的観点および長期的視点で「データマネジメントの考え方」を確立させることが最重要だと言えるのである。
データマネジメントの考え方が確立していなければ、ビジネスの環境が変化するたびに、データ統合・活用基盤も含めた多くのシステムを改修しなければならず、環境変化の激しい状況下ではシステム側が追従できない。もし、全体的な視点でシステムが対応できなければ、小手先の対応を繰り返すことになり、システムやデータ環境がサイロ化してしまう。そして、サイロ化するとシステムやデータがつながらなくなり、負のサイクルに突入していく。
少し大げさにいうと、データマネジメントの考え方を確立していなければ、頑張ってビジネス環境の変化に対応しようとすればするほど、システムとデータの状況が複雑化し、望む状況とは正反対の結果を招くことになりかねないのである。
もちろん、ビジネス変革の必要性は理解しながらも、データマネジメントの重要性とその因果関係が、すぐにつながるものではないだけに理解されにくい部分もあるだろう。しかし、今後のビジネス活動において「データを武器にし、差別化できた企業だけが生き残る」状況は明確であり、「データマネジメントの考え方」の確立は避けて通れない。
[1] 参考:「『DX 推進指標』とそのガイダンス」(PDF、経済産業省)