「プロジェクト収支管理」が不可欠な理由
近年、企業が抱える経営課題は、複数の部門同士の協力なしでは解決が難しい複合的な性質のものばかりだ。その解決に最適な組織体制は、外部の専門パートナーを加えての部門横断型のプロジェクトだろう。特に昨今のDXブームの影響で、システム開発業務を請け負うSIerのビジネス機会は増大している。顧客や投資家の期待に応えるためにも、SIerの経営者には、自社がどんな依頼内容のプロジェクトをどれだけ抱えているか、そして各プロジェクトの進捗が順調かを継続的にモニタリングし、収益性の確保に努めなくてはならない。
その責任を果たすために欠かせないのが、全社的な視点からプロジェクト収支を可視化し、意思決定に有益な示唆を経営に提供する「プロジェクト収支管理」の仕組みである。プロジェクト型のビジネスでは1年以上の長期におよぶものも珍しくない。大規模プロジェクトでは、会計的な統制の目が行き届きづらい問題が生じることもある。
それでも、プロジェクト収支管理の仕組みさえ確立していれば、プロジェクトが始まってから終わるまで、黒字なのか赤字なのかがわからない「どんぶり勘定」にはならないはずだ。プロジェクトの収支のどんぶり勘定を撲滅することは、なにもSIerだけの経営課題ではない。コンサルティングファームや広告代理店、イベント会社、クリエイティブエージェンシーのように、プロジェクト単位で仕事をする業態にも共通する課題と言える。
では、プロジェクト収支管理ではどのようなデータを対象にすればいいのだろうか。原価の大半を占めるプロジェクトメンバーの人件費はすぐに思い浮かぶはずだ。それに加えて、旅費交通費などの諸経費のデータももれなく管理しなければならない。こうしたプロジェクトの収支管理に必要なデータは、経理が営業やプロジェクトマネージャーなどの現場の協力を得て収集することが多いが、国内企業では専用のツールを使わずに、Excelやメールに依存したやり方で業務を行っていることが少なくない。
このプロジェクト収支管理のやり方ではデメリットが大きい。プロジェクト収支管理の最近の状況をよく知るビーブレイクシステムズ 営業部 リーダー 堀井勇也氏は、「手作業の負担の大きさ」を指摘する。
Excelでの管理はもう限界!
専用システムを使わない、典型的な業務フローは次のようなものだ。まず、経理がExcelで専用フォーマットを作成し、メールで入力を依頼し、回収したファイルの数値を元に集計を行う。このやり方では、定期的に進捗を報告しなくてはならず、プロジェクト側の入力負担もともなう。それに一方の経理側にも、回収が遅れている場合の催促や入力内容のチェック、不備がある場合の修正、データ集計の手間がある。一連の作業が終わった後は、社内の定型書式でレポートの作成もあるだろう。
そうした課題を抱える顧客と接することが多い堀井氏は「お客様から、プロジェクト数が増えてきて、Excelだけでは収益と原価の管理が難しくなってきたという意見をよく聞きます」と話す。これは、Excelに過度に依存していると、進行中のプロジェクト数に比例し、事務作業量が増えてしまう企業の現状を示唆する。
さらに、プロジェクト収支管理に関係する情報を管理するシステムが社内に散在していることも、プロジェクト収支の可視化を難しくしている要因の一つだ。データサイロの問題は、「データの整合性が取れない」という悩みにも結び付く。経営陣が意思決定に必要とするデータは、Excelの中だけにあるのではない。プロジェクトマネージャーが進捗管理で使うプロジェクト管理ツールにもあるし、財務会計システム、人事給与システムなど、格納されているツールは多岐にわたる。その結果、入力内容の重複、手作業での連携と多大な労力が必要になってしまう。「データを一元的に管理できる仕組みが必要と実感し、プロジェクト収支管理の重要性に気づくようです」と堀井氏。
そもそもソフトウェア開発プロジェクトの場合、始まったプロジェクトが計画したスケジュール通りに終らないことも少なくない。顧客の強い要望で仕様変更が発生すれば、スケジュールやメンバーの配置を見直す。トラブルが発生すれば、外部のエンジニアに応援を依頼しなくてはならないこともある。状況に応じて、計画の変更を行わなくてはならないが、Excelベースでは作業が到底追いつかないだろう。経営と現場が正確な情報を共有していないばかりに、適切な対策を講じる機会を失うことにもなりかねない。
プロジェクト成功は、いわゆる「QCD(Quality、Cost、Delivery)」のような複数の条件が揃うことが重要だ。そのためには経営に必要なデータすべてが同期し、信頼できるものとして全社的に共有する仕組みが必要となる。現場を単純作業から解放するためにも、専用のITツールを導入することが望ましい。