IT経営における課題の背景
IT経営のあるべき姿を考えてみると、IT戦略からプロセス改革、経営判断のサイクルが回り、各アクションが有機的に連携していることが望ましい。しかし、エンジニアとしてITの現場を見てきた日立システムアンドサービス(以下日立システム)の長谷川守邦氏は「現実はそうなっていない」と指摘する。
現状では、ITコストの7~8割が保守運用に費やされている。ユーザー部門から新たな要求が来ても、情報システム部門は日々の業務に追われて応えることができず、経営層はITの貢献度に疑問を感じている。経営層から見れば、IT投資も事業投資の一環であり、当然、経営への貢献を求める。ところがIT投資の効果を経営視点で明確に説明することが難しい。ITはPC、サーバーだけで効果を測定するものではなく、そこから産み出される情報が価値だ。しかもそれは、使う人により変わる。
経営層はITに中長期の時間軸で業績、企業価値向上への貢献を求めるのに対し、情シス部門はITサービスの安定供給を最優先ミッションと考えている。一方ユーザー部門は自分たちの事業への貢献を求め、経営層よりも短い時間軸で考えている。その結果コミュニケーションギャップが生じ、ITの投資計画における優先順位が決まらない。
そこで長谷川氏は「ギャップを埋めるには、IT投資案件における業務プロセスの改善による定性的効果を定量化し、業績への貢献を財務数値に変換し、ROIを導き出す必要がある」と提言する。同時に財務的効果を算出する「唯一の正解式」は存在せず、三者間が導き出した数値について議論し、共通認識を持つことが大切だと指摘した。