Workdayの優位性の源、「実用性」と「一貫性」
──今回のRisingでは、AIに関する複数のアップデートが発表されました。AIをはじめとする今後のテクノロジー進化において、ソヒジャンCTOが特に関心を寄せていることは何でしょうか。
ソヒジャン氏:私は、あくまでも弊社、つまりWorkday自身のアプローチに最も注目しています。
Gartnerのハイプ・サイクルはご存じですよね? 新技術が登場すると一気に皆から注目され、その後どんどん期待が高まっていき、やがて思ったほど期待に応えられないとわかると世間の関心が急落。そして最終的には、その技術の現実的な実用性が見つかるという動きを示したものです。インターネットやモバイル技術、ブロックチェーンも、このサイクルをたどってきました。AIも同様の道を歩むことになるでしょう。
しかし、Workdayはこのサイクルを飛ばし、最初から実用性に重点を置いたアプローチをとっています。
──どういうことでしょうか。
ソヒジャン氏:たとえば約1年前、多くのメディアが「WorkdayはAIの分野で遅れている」と報じたことがありました。しかし、私たちは「本当に機能する、必要な技術とは何か」を常に顧客とともに見極め、必要なものは開発・実装し、機能しないものは廃してきたのです。
そして今では、今後2年間におけるAIのロードマップについて、自信を持って示せるようになりました。このアプローチは、過去のWorkdayの技術革新でも成功を収めてきた手法であり、これからも顧客に最良の結果をもたらすと信じています。
──ERPやエンタープライズ・マネジメント製品を提供する各社は、今年に入って続々と独自のAIを開発し、実装を進めています。今後、この市場で競争の鍵となる要素は何だとお考えですか。また、Workdayの優位性はどこにあるのでしょうか。
ソヒジャン氏:Workdayは設立当初から、「人材と財務のデータを一つのシステムに集約することで、大きな利点を得ることができる」という考えのもと、製品を構築してきました。この基盤があることで、データが散在している組織では実現不可能な機能を提供できます。この考え方は、当社のシステムの構造だけでなく、M&A戦略にも反映されています。
Workdayは19年の歴史の中で、平均して年に1社のペースで企業買収を行ってきました。買収の際に最も重視しているのは、「対象企業の技術とデータアプローチが、当社のものと適合するかどうか」です。いわゆる“シナジーへの期待”ですね。
適合しないと判断すれば、買収は行いません。M&Aの目的として、顧客数や市場シェアの拡大、競合他社の排除ではなく、「顧客のニーズに応え、一貫性のあるサービスを提供すること」を重視しているからです。このアプローチこそが、Workdayの競争優位性だと考えています。
たとえば数年前、Workdayは業績管理ソリューションを提供するAdaptive Insightsを買収しました。しかし買収するよりも前に、Workdayは同様のソリューションを開発していたのです。そして、既に50社以上の顧客がそれを利用していました。このソリューションの開発に要した時間は3年です。
ところが、この技術分野でより優れた機能を持つAdaptive Insightsを買収した際、当社は躊躇なく自社で開発したソリューションを終了させ、顧客にはAdaptive Insightsへの移行をお願いしました。
──他社ではあまり行われないようなことなのでしょうか。
ソヒジャン氏:ITベンダーの多くは、市場シェアやユーザー数、顧客数の拡大を主目的に企業を買収するため、類似の機能を持つ複数の異なるシステムを抱えているというケースも珍しくありません。この時点で、我々と異なるアプローチですよね。Workdayは、「すべての顧客に一貫性のあるサービスを提供する」ことを念頭に置いています。このアプローチは今後も継続していく方針です。