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不確実性の時代にこそ求められるビジネスインテリジェンス(後編)

株式会社テックバイザージェイピー 栗原潔氏

経営環境の不確実性が増大する中、企業のIT 予算も圧力を受けている。しかし、このような状況においてこそ、企業のリスク管理能力を向上できるBI はIT 投資ポートフォリオにおいて重要な位置づけを占めるようになる。BI は「小さく始めて大きく育てる」ことが比較的容易なテクノロジーであり、企業の既存資産を有効活用できる点でも魅力的だ。ポイントを絞ったBIへの投資を行うことで、今日の厳しい環境下においても企業は競争力を向上できる。【後編】

今日におけるBI 投資のあり方

 では、今日においてBIへの投資を行う上でどのような点に留意すべきであろうか。もちろん、その答は企業により異なるが、ここでは一般的に当てはまるポイントについて述べよう。 

1. ツールの標準化に投資する

 「小さく始めて大きく育てやすい」というBI の特性は、企業にとって望ましいものである一方で弊害ももたらす。各プロジェクトや各部門が独自にBIツールの選択をしてしまい、企業内に多種多様なBIツールが混在するようになってしまうという状況だ。このような状況は、ライセンス料金の無駄を発生させるだけではなく、データを通じた部門間の適切なコミュニケーションを阻害し、組織の縦割り化を助長してしまう可能性がある。さらに、特定のツールに習熟したユーザーが別の部門に異動した時に、再度新たなツールの使用法を学習しなければならなくなるなど、人的資源面での無駄も多くなる。 

 既に社内にある程度BIが普及している企業であればツールの標準化に投資することは重要な選択肢のひとつだ。中規模以上の企業においては、一種類のツールに完全に標準化することは現実的には不可能であろう。たとえば、既に業務パッケージに組み込み型のBI機能が存在する場合には、それ以外のBIツールを採用することは困難なことが多い。そのような場合でも少数の選択されたツールへの標準化を行い、例外を適切にコントロールする取り組みが必要だ。

 なお、逆説的に思えるかもしれないが、ツールの標準化という取り組みは、今日のような厳しい経営環境においてこそ遂行しやすいという要素もある。予算が潤沢にある状況では、各部門のパワーユーザーが自分の好みのツールに必要以上に固執し、IT部門の標準に従わない可能性が高くなる。IT部門が望みのツールを提供してくれないならば自部門の予算で購買してしまうケースもあるくらいだ。しかし、経営環境が厳しければ、全社標準に従わないことによる余分なコストを部門が負担できる可能性も低くなるし、会社全体としての危機意識の共有により部門の都合よりも全社的な最適化を優先する心理が生まれることも充分に考えられる。

2.データ統合に投資する

 言うまでもないことだが如何に高度なBIツールを使用しても分析の対象となるデータが適切なものでなければ、ビジネス上の価値を生み出すことはできない。特定のデータセットだけを対象としたBIもあり得る(たとえば、アンケートの調査結果の分析など)が、BIの真の価値を享受するためには、企業内の多種多様なデータを統合した分析が前提である。現実的には全社的データウェアハウスを構築することになるだろう。その意味で、データウェアハウスとBIは表裏一体の存在である。

 データウェアハウスの実現において見逃されがちなポイントのひとつは、データウェアハウス実装負荷の大部分(経験則的には3分の2以上)がデータ統合機能の実装に費やされるという点だ。データ統合の負荷を過小評価したことで、充分な価値を提供できなかったり、予算を大幅にオーバーしてしまったりしたデータウェアハウスの事例は多い。いわゆる、ETL(Extract-Transfer-Load)、すなわち、業務系システムなどのデータソースからのデータ抽出・変換・ロードにフォーカスした投資を行うべきだ。

 なお、全社的なデータ統合の取り組みにおいても、ツールの標準化の場合と同様に社内の政治的軋轢が課題となることが多い。そして、経営環境が厳しい時であるからこそ、このような政治的軋轢の問題を解決しやすいということも同様に言えるだろう。

 さらに、データウェアハウスに格納されるデータの品質に対する考慮も重要である。データウェアハウスが如何に適切に設計されていても、その中身となるデータが不正確であれば、やはりBIは価値を提供することはできない。多くの企業においては特にマスター系データの正確性に課題があることが多い。入力ミスの問題に加えて、たとえば、個人に関するデータ項目であれば、転居、異動、婚姻、死亡などによりデータの正確性は時と共に劣化していくという問題もある。データ品質を維持・向上するための積極的な取り組みが必要である。なお、この取り組みは基本的に業務部門が主体として行う性格のものであることに留意すべきである。IT部門は、データの入れ物であるところのDBMS等には責任を負うが、その中身であるデータはあくまでもそれを扱う業務部門がオーナーとなるべきものだからである。

3.分析のリアルタイム性強化に投資する

 「業務系ではリアルタイム処理が必要だが分析系では前日までのデータで充分」という発想は過去のものになっている。データ分析処理を完全なリアルタイムで行うのはまだ先のことであるが、BIの分析対象となるデータのリアルタイム性(鮮度)が継続的に向上している。分析データの鮮度を高めることで、BIの価値を一層向上することができる。競合他社が時間単位の分析により業務を最適化しているのに、一日遅れのデータの分析に甘んじている状況が企業経営にとってどのようなリスクをもたらすかは改めて説明の必要はないだろう。実際、たとえば、米国の大手流通業においては、一日に数回のデータウェアハウスへのローディングを行うことが常識となっている。ETLプロセスのリアルタイム性向上への投資が急務となっているのである。

 また、分析の速度自体を向上するための投資も有効である。データマイニング処理などを伴う複雑な分析には数時間を要することがあるが、この時間を短縮することでBIの戦略的価値をさらに高めることができる可能性がある。この課題に対応するための具体的なイノベーションとしては、分析処理専用にチューニングされたハードウェアを搭載したデータウェアハウス・アプライアンス、データマイニングの機能をDBMSのユーザー定義関数として実装することでデータ移動に要する時間を大幅に短縮できるインデータベース処理などがある。

 上記のデータの鮮度向上、そして、分析処理速度の向上という比較的自明なリアルタイム化に加えて、最近になりデータ分析環境の迅速な構築によるリアルタイム性の向上にも注目が集まりつつある(図5 参照)。通常、今まで分析の対象になっていなかったデータ要素に対する新たな分析の要件が生じた場合には、サーバを調達して、データマートを準備し、必要なデータをロードして分析を行えるようにする必要がある。これは、通常は数週間を要するプロセスである。物理的なデータマートではなく、データウェアハウス内に仮想的なデータマートを構築することで、このプロセスを数時間のレベルにまで縮小することができる。これは、データマート・プロビジョニングと呼ばれる方式であり、先進的なBIユーザーにおける活用が見られ始めている。

図5:BIリアルタイム化の3つの視点

4.ユーザーのセグメントを把握し、適材適所の展開を行う

 BIの究極の目標に、企業内の全部門が自由に分析を行いビジネスに有効な知識を獲得できるようにする「情報民主主義」がある。データは一部の部門が独占すべきものではなく、誰もが自由にアクセスできるべきである(もちろん、セキュリティ面での考慮は必要だが)という発想である。この方向性は正しいといえるが、この目的のために、全社員に同等に高度なBI ツールを与えてしまうという方式には問題が多い。

 自由な分析を行い、かつ、他者に向けてテンプレートも開発できるパワーユーザーから、固定的なレポートを閲覧するだけのカジュアルユーザーまでデータ分析のスキルには差がある(図6 参照)。全ユーザーに一律に高度なツールを与えてしまえば、ライセンス料金の無駄になるだけではなく、「BI は難しい」という誤った先入観を与えることになってしまうだろう。重要なポイントは社内のパワーユーザー、特に現場部門におけるパワーユーザーをうまく見つけ出すことだ。業務をよく知るユーザー自身が業務の分析を行えるようになってこそBIの価値を最大化できるからだ。

図6:BI ユーザーのセグメンテーション

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BI 市場の動向

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この記事の著者

栗原 潔(クリハラ キヨシ)

株式会社テックバイザージェイピー 代表、金沢工業大学虎ノ門大学院客員教授日本アイ・ビー・エム、ガートナージャパンを経て2005年6月より独立。東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学科修士課程修了。弁理士、技術士(情報工学)。主な訳書にヘンリー・チェスブロウ『オープンビジネスモデル』、ドン・タプスコッ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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