3年以上の“終わらない企画フェーズ”をどう立て直したのか
酒井:ただ、ここまで大規模なプロジェクトとなると、一筋縄ではいかないことが、きっとたくさんありますよね。
工藤:そうでうすね。CSPJの立ち上げ期について、少し本音で話させていただくと(笑)、2017年頃に構想が始まったのですが、実際の要件定義に入るまで3年以上かかりました。“終わらない企画フェーズ”と呼ばれていて、企画フェーズが終わったと思ったら“企画フェーズ2”が現れた、という状態が続いていたんです。
私は、その最中にアサインされたのですが、率直に混沌とした状態でした。事業部門、財務部門、IT部門、経営層など、様々な利害関係者がいて、なかなか意見がまとまらず、一度決まったはずのことが覆ることも……。個別最適だった当時のITシステムの在り方を象徴していたかもしれません。
酒井:そこからどうやってワンチームとなり、プロジェクトを立て直していったのでしょうか?
工藤:大きくは2つです。1つ目は、推進体制を見直しました。それまでIT部門の中にあったPMOを、グローバル戦略本部に移管し、CSPJを単なるシステム刷新ではなく、経営の刷新プロジェクトとして位置づけ直したんです。さらに、グローバル戦略本部に経験豊富な人材を配置し、事業部門、本社部門、IT部門を横断的に見る体制を整えました。
2つ目は、アプローチの転換です。当初は、オムロンの全エリアの要件を盛り込んだSAPのグローバルテンプレートを作り、それを一斉に展開しようとしていました。しかし、これでは各エリアの意見調整に膨大な時間とコストがかかってしまい、結局はバラバラになりかねないと危惧しました。まさにNotesの再来です。そこで「段階進化型」というアプローチに切り替えました。まず1つの地域に絞り、グローバルで必要な要件と、その地域固有の要件を組み込んだテンプレートを作ります。そして、それをもとに2つ目の地域に展開し、その地域の要件を追加していく。このように小さく始めて徐々に育てていく方式に変えたんです。これにより、プロジェクトは大きく加速しました。
SAP導入は欧州から着手 事業部門のコミットも
酒井:CSPJでは、「SAP S/4HANA」をはじめとする様々なSAPソリューションをグローバルで導入していく計画と伺っています。こうしたグローバル標準のシステム導入では業務プロセスの見直しも必要だったと思いますが、その点はいかがでしたか?
工藤:まず、欧州から始めたことが良い選択だったと思います。欧州から始めたのには、2つの理由があります。1つは物理的な理由で、欧州で使っていた基幹システムのエンドオブサービスが最も近かったことです。
これが最も大きな理由なのですが、もう1つは、欧州は標準化に慣れた地域ということ。欧州では様々な国が協働する中で、標準的なルール作りが日常的に行われています。オムロンの欧州地域は南アフリカやトルコも含みますが、英語を共通言語として、パッケージに合わせて自社のプロセスを変えていくという考え方が浸透しています。
酒井:そうなんですね! 知りませんでした。
工藤:欧州のメンバーと仕事をしていると、原理原則を重視し、非常にロジカルで効率性を追求する文化を感じます。そういった背景から欧州、日本、他のエリアという順で展開していく計画です。日本の導入は2026年4月を予定していますが、規模が大きいので並行して準備を進めています。
酒井:業務プロセスの見直しについては、どのように進めていったのでしょうか。
工藤:具体的には、3つのレイヤーで進めています。まずトップマネジメント同士でコミットメントを形成し、それを受けてミドルのリーダー層が「Fit to Standard」という方針に基づいて標準化を推進します。そして、それがメンバーレベルの具体的な作業にも反映される。これまでのプロジェクトと大きく違うのは、事業部門自らが変革の必要性を認識し、標準化プロセスに強くコミットしていることです。トップから現場まで一貫した取り組みができていることが、プロジェクト成功の重要な要因になっていると思います。