成長率が横ばい状態のZoom 掲げるAI戦略とは
ハシーム氏は、MicrosoftとGoogleでの勤務を経て、2023年の2月にZoomに入社。同社に移った経緯について、「柔軟な働き方をしたいと考えたときに、Zoomの製品と柔軟な対応力が魅力に感じた」と語る。
現在、同社はビデオ会議をはじめ、電話やチャット、ドキュメント作成、ワークスペース予約、ルーム機能などのサービスを提供。オープンプラットフォームとして、MicrosoftやGoogleなどのアプリとも連携が可能で、ウェビナーや営業支援ツール、会話分析によるリコメンド機能、コンタクトセンターを通じたカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上などといった目的に利用できる。
コロナ禍を経て業績を伸ばした同社は、2021年度に総収益が前年比で326%増加[1]。しかし、2024年度には前年比3.1%[2]と、現在では成長が横ばい状態であるように見受けられる。そのような現状について、ハシーム氏は「AIファーストのプラットフォームを展開していくことで、その状況を変えていける」と自信を覗かせた。

そのための製品戦略として、「Zoom Workplace」全体で機能する「AI Companion」の開発に注力していると同氏は述べる。AI Companionとは、ミーティング中のメモや質問対応、ミーティング後の要約作成や次のステップの通知などを支援するもの。これらの機能は、分散化・グローバル化した労働環境でも効率的に活用できることが特徴だ。2024年10月時点で、400万以上のZoomアカウントで有効化されており、Fortune 500企業の57%が利用しているという。
「AI機能の開発に力を入れる企業が他にも多くいる中で、Zoomが他社と差別化できる点は、料金面での使いやすさです。AI Companionは、Zoomの有料ライセンスを持つユーザーに追加費用なしで提供されています。Microsoft OutlookやGmail、Googleドキュメントなどとの連携も、追加料金なしで行えることが特徴です」(ハシーム氏)
また、製品内で使用される生成AIについては、OpenAI、Anthropic、Llamaなど複数のモデルを用途に応じて活用しつつ、Zoom独自のモデルも組み合わせている。第三者機関によるMicrosoft TeamsおよびMicrosoft Copilotとの比較では、文字起こしの単語エラーで36%、ミーティング要約の品質で16%優れているという結果が出ているとのことだ[3]。
では、生成AIの活用による情報漏えいやハルシネーションといった懸念にはどのように対応しているのか。同社は、顧客データをAIモデルのトレーニングには使用しない方針を徹底しており、顧客が有効化する機能を詳細に選択できる仕組みを提供。「生成された情報の出所を明確にする引用機能を追加し、ユーザーが情報の信頼性を確認できるよう配慮している」とハシーム氏は説明した。
「AI Companionは、あくまでユーザー個人のツールとして設計され、情報の確認やレビューをユーザー自身が行える環境を重視しています。私たちは顧客データを使用せず、信頼できる他のデータソースを活用して広範なトレーニングを行うことにより、多くの方がAI Companionを安心して利用できると考えています」(ハシーム氏)
[1]「Annual Report Fiscal 2021」(2021年, Zoom)
[2]「Annual Report Fiscal 2024」(2024年, Zoom)
[3]「Zoom AI Performance Report 2024」(2024年, Zoom)