基幹系システムのクラウド化、データベースが障壁に
企業における基幹系システムには「Oracle Database」が多く採用されている、特に中堅・大手企業においては顕著だろう。クラウド化の波が絶えず押し寄せる中、たとえばMicrosoft Azureへの移行を考えたとき、IaaSとしてOracle Databaseを利用することでハードウェアの管理からは解放される。しかし、運用管理の手間までは減らない。そう指摘するのは日本マイクロソフトの大林裕明氏だ。

他にも「Azure SQL Database」のようなPaaSに移行する手もあるが、基幹系システムのOracle DatabaseではPL/SQLがよく使われており、その移行には手間とコストがかかる。特にミッションクリティカルシステムは「Oracle RAC」で高可用性を確保しているだけでなく、(Oracle Databaseの)Enterprise Editionのオプションを利用していることも多く、IaaSでは対応できないことがある。こうした要因も重なり、基幹系システムのクラウド化は依然として進んでいない状況だ。
もちろん移行先にOracle Cloud Infrastructure(OCI)を採用するケースもあるが、既にAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureでさまざまなシステムを稼働させている企業は多い。そうなると基幹系システムのデータベースだけをOCIで稼働させることは難しく、マルチクラウドでの運用を余儀なくされる。とはいえ、運用管理の手間やクラウド間のレスポンスなど、解決すべき課題は少なくない。
このような状況下、2023年9月に転機が訪れる。Oracle創業者 兼 CTOのラリー・エリソン氏がMicrosoft本社を訪れ、「Oracle Database@Azure」を共同発表したからだ。これはOracle Exadataの環境をMicrosoft Azureのデータセンターに置くというもので、非常に画期的な発表として話題となった。
実は2019年にMicrosoftとOracleは、クラウドデータセンターを直接接続する「Oracle Interconnect for Azure」を発表している。OCIが提供するOracle Databaseの機能を制約なく使える上に、Azureから容易に接続できるため、それぞれのニーズに幅広く応えられる点が特長だ。
その一方、「ミッションクリティカルな基幹系システムを動かすとなると、異なるデータセンター間のレイテンシー問題、アプリケーションとデータベースが分離することによるインテグレーションの手間など、課題は残っていました」と日本オラクルの桑内崇志氏は述べる。

その後、Oracle Interconnect for Azureを利用した「Oracle Database Service for Azure」によってインテグレーションの課題は軽減されているが、顧客からはMicrosoft Azure上でOracle Databaseの最新機能やRACを使いたいとの声は大きかったという。
そうしたニーズに応えるべく、データセンターのフットプリントを小さくする技術開発などを続けた結果、より踏み込んだ協業ソリューションとしてOracle Database@Azureが実現している。
「Oracle Database@Azure」の魅力と効果、その利用価値は?
「ライバル関係だったMicrosoftとOracleが、Oracle Database@Azureで協業すると発表したことは衝撃的でした」と振り返るのは、日立製作所の森中雄氏。両社のパートナーである日立製作所は、すぐに検証へと動き出したという。

前述したようにOracle Database@Azureは、Microsoft AzureのデータセンターにOCIの環境を置くことで、マルチクラウド環境におけるレイテンシーを大幅に改善可能だ。さらに実運用で重要な料金や支払い方法、監視の統合機能なども提供されており「Oracle Interconnect for Azureで残っていた課題をかなり解消できるものです」と森中氏は評する[1]。
レイテンシーの改善は明らかだが、実際に基幹系システムを動かした際に「業務にどのような影響が及ぶのか。検証では、そうした点も見極めている」と森中氏。特に懸念されたのは、株式や債券の売買といった大量トランザクションの処理、時間内で実施しなければならない大規模なバッチ処理、そして大量データの分析処理など、データベースに大きな負荷がかかるワークロードだ。ミッションクリティカルシステムにおいて問題なく、適切に処理できるのか。森中氏は「クラウド移行後にどの程度の性能影響があるのかを事前に把握できることは極めて重要です。そのため、ワークロードの特徴別にレイテンシーの影響をしっかりと把握しなければなりません」と話す。
また、「基幹システムでは踏み込んだ管理が必要であり、それぞれのクラウドで実現できるリソース監視やデプロイなど、システムの運用・保守方法を明確にする必要がありました」と、日立製作所の片山仁史氏は指摘する。

たとえばサービスのレスポンスが悪くなれば、「まず疑われるのはネットワークかデータベースサーバーでしょう」と、日本オラクルの田子得哉氏。Oracle Database@Azureでは、サポートは密連携されているものの場合によって、ネットワークはMicrosoft Azure、データベースはOCIと問題を切り分ける必要がある。基幹系システムのシビアな運用においては、OCIとAzureの両方の知見をもつ日立製作所が支援することで円滑に利用できるという。
また、日本オラクルと日本マイクロソフトにおいては、“技術的な融合”だけでなく、サービス現場の営業担当者、技術担当者までもが両社における言葉・文化の違いまですり合わせ、対処する必要があると田子氏。そのためにユーザーへの共同提案、実案件におけるノウハウの共有を含め、両社間では極めて密な連携が行われているという。

日本マイクロソフトの松森健明氏は「両社のクラウドをシームレスに連携する。そのために技術的側面からだけでなく、営業や保守プロセスも含めて『マルチクラウドの複雑性』に根ざした課題を大きく改善しています」と述べる。
[1] 参考「日本オラクルと実施した基幹業務向けマルチクラウド構成の共同検証結果をもとに、クラウド移行支援を強化」(2023年11月10日、株式会社日立製作所)
日立製作所のナレッジが「Oracle Database@Azure」の真価を引き出す
日立製作所は、長年にわたってミッションクリティカルシステムの構築・運用に関する知見を蓄えており、基幹系システムにおけるデータベースのワークロードとはどのようなものかを十分に把握している。たとえば小さなトランザクションが大量に発生するOLTP、それも限られた時間内に大量データを処理するバッチ処理が必要なケースがあるとする。このときネットワークのレイテンシーは、OLTPでは大きな影響こそ受けないものの「大量データをやり取りするバッチ処理では、少しの遅延が大きな問題となることがあります」と片山氏。アプリケーションによっては、データベースとの通信が数多く発生してしまう。つまりOracle Database@Azureがマイクロ秒レベルのレイテンシーを確保できるとはいえ、大量の通信が積み上がっていくことで、結果として大きな遅延になりかねない。

だからこそ、サーバーやネットワークスイッチが同じラックにある環境との違いは何か、処理が何十万回と繰り返されるとバッチのワークロードにどのような影響が及ぼすのか……ミッションクリティカルシステムをOracle Database@Azureで動かすためには、それらを明らかにする必要がある。加えて、Oracle DatabaseやMicrosoft Azureの専門知識がどれだけ必要なのか、そうした点もあわせて見極めなければならないと片山氏は指摘する。
そこで日立製作所は可用性ゾーンやネットワーク環境などを変更しながら、さまざまなパターンで検証を実施。レイテンシーにどのような影響を及ぼすのか、再現性の高い提案をする上では極めて重要だ。特に日立製作所にはOracle Databaseの専門技術者が揃っており、Oracle Database@Azureの検証結果が明らかになれば、より踏み込んだ提案も可能になる。
実際に日立製作所は、これまでのミッションクリティカルシステムの構築・運用実績、Microsoft AzureやOCIの知見、そしてOracle Database@Azureの検証結果などから得られた技術ノウハウを活用し、新たに「クラウド移行支援サービス for Oracle Database」を提供することを2025年3月に発表した。同サービスで基幹系システムのクラウド化が進めば、多くの企業が課題としている「マルチクラウド運用」「データ活用」の進展も期待できる。今まで活用できなかったミッションクリティカルシステムに蓄積されたデータを用いて生成AIなども活用できれば、ビジネス価値の創出にもつなげられるだろう。

もしMicrosoft AzureのIaaSで稼働しているデータベースのワークロードで課題を抱えている場合は、Oracle Database@Azureを検討してほしいと田子氏。オンプレミスや他社クラウドのデータベースワークロードに課題を抱えているなら、Oracle Database@Azureは有力な選択肢になるとする。また、Oracle Database@Azureにある基幹系システムのデータをPower BIやFabricのCopilotを使って自然言語で分析できることはもちろん、“インフラやアプリケーションのモダナイズ”という新たな展望も描けると松森氏は加える。
「Oracle Database@Azureは、大規模なミッションクリティカルシステムをクラウド化するための待望のサービスと言えるでしょう。今後は日本オラクルと日本マイクロソフトの3社での協業を深化させていきます」と森中氏。日立製作所の検証によって、より最適なベストプラクティスを提供できるようになり、これを契機として日本企業のデータ利活用がさらに前進していくと期待を寄せる。

日立製作所だからこそ実現できる! 「Oracle Database」のクラウド移行
日立製作所では、本稿で紹介した「Oracle Database@Azure」をはじめ、課題となっている「Oracle Database」のクラウド移行を適切に実現するための独自サービス「クラウド移行支援サービス for Oracle Database」を用意しています。長年にわたりミッションクリティカルシステムを支援してきたエキスパートにより、移行要件のヒアリングから設計・構築、移行までを一貫して支援。移行コストの低減を実現します。