「1年」で実現した次世代への跳躍—RISE with SAPへの移行を可能にした"タイミングの妙"

ENEOSは、2024年1月に移行プロジェクトを立ち上げ、2025年1月から新しい環境でのCoMPASSの運用を開始する。ECC 6.0からS/4HANAへの移行に悩む日本企業が多い中、ENEOSの場合はオンプレミス環境のS/4HANAからS/4HANAへのバージョンアップとプライベートクラウド環境への移行に同時に挑戦し、成功したことになる。鳥居氏は、「最初のプロジェクトはS/4HANAの初期リリースから2年程度しか経っていないタイミングだったが、それでもS/4HANAを選んだ。安定稼働に至るまでに苦労した分、RISE with SAPへの移行では基本構想の策定段階から経験を活かすことができた」と分析している。
移行で選んだバージョンは「2023」だ。新規導入時に「1709」で導入していたため、当初は「2022」をターゲットバージョンと考えていたが、SAPのポリシー変更で、「2023」であれば最長で2030年までサポートが受けられるとわかったからだ。そこでバージョンアップだけを検討していたが、計画を1年遅らせ、かつSAPが運営するマネージドクラウドへの環境への移行を決定した。
鳥居氏は、「これから新しい機能が出た時にこのまま継続利用するか、あるいは早めにバージョンアップするか。テクノロジー動向を踏まえて決めなくてはならないが、タイミングが良かった」と述べ、田中氏も「合併のタイミングが少しでもずれていたら、条件が揃わずに移行を断念したかもしれない。時期の巡り合わせが良かった」と同意した。とはいえ、RISE with SAPへの移行を即決できたわけではない。保守や運用まで含めた移行コストの検証に加え、ENEOSのビジネスへのインパクトを経営に示す必要があったため、決断までに慎重に検討を重ねた。
経営層からの承認を得て、RISE with SAPへの移行プロジェクトを2024年1月に開始する。そして1年後の2025年1月6日には新環境での稼働開始に漕ぎ着けることができた。エンドユーザーにしてみれば、正月明けに出社したら去年と同様にシステムが動いている状態だが、前述の通り、CoMPASSのシステム規模は国内でも屈指のものだ。成功の裏側では、入念なリハーサルを繰り返すなど、慎重に計画を実行している。
年末年始を挟んだのも、システムを止めて作業を行うタイミングがこの時期しかなかったためだ。事前に入念なリハーサルを繰り返し、旧システムからSAPが運営するマネージドクラウド環境へ移行できるか、1709から2023へのバージョンアップができるか、1月6日に最新の状態になっているかを徹底的に検証した。反省会での学びを活かせた例とも言える。加えて、「最終的に1年で移行プロジェクトを成功できたのは、最初の導入でアドオンを最小限にしていたことが大きい」と名代氏は評した。