変革の礎にある「ペーパーレス」の徹底 たかだかと侮るなかれ
実は、こうした変革の礎を作っているのが、ペーパーレスへの取り組みだ。丸岡氏は、「ペーパーレスはDXではないと言われることが多いが、常陽銀行では業務のデータ化とカルチャー変革を促進する基盤として位置づけている」と力を込める。
「紙を伴う業務は、印刷・押印・回覧・授受・送付・仕分け・保管・探索・管理・廃棄などと数えきれない小さな雑務の塊であり、膨大な人件費を費やしています。また、紙主体の業務は内容をデータとして蓄積できず、業務がブラックボックス化しやすい」と丸岡氏は指摘する。紙を減らそうとすれば、自ずと「デジタルツールに移行したい」「業務フローを見直したい」という発想になるのも狙いだ。
同行のペーパーレスは本気だ。Tableauを使って全拠点の印刷状況を徹底的に可視化している。全店の印刷枚数に加えて、本部は部署・グループ単位でどこの誰が何枚印刷したかまで、定期的に更新。それらは全員が閲覧できる状態にしている。データのドリルダウンにより、印刷した個人まで把握でき、細部まで徹底。
「えげつないのはこれで」と丸岡氏が見せてくれたのは、各部署の印刷枚数を日次で可視化したダッシュボード。さらに全部署共通のKPIとしてペーパーレス目標を設定し、部署別の順位も経営層まで含めて社内に公開している。
この取り組みの成果は目覚ましく、年間7000万枚もの紙を削減。システム部門やリスク統括部門では90%の削減を達成し、全体でも約70%の削減に成功している。同行では単なる紙の削減ではなく、業務効率化やBPR進捗の指標として管理しており、部店別・個人別までドリルダウン可能なBIを構築しているのだ。

しかし、丸岡氏が評価するのは数字ではなく、組織全体の意識変化だ。日々、様々な部署から自発的に「ペーパーレスを達成するためにこれをする」という通達が出てくるようになり、ある営業店では「シュレッダーは私がやる。紙出力が必要なものだったかどうかは私が見極める」と宣言した支店長もいるという。
「DXを進める上で最も効果的なのは、特定の人や部門が大騒ぎして推進するのではなく、組織の各々が自分の課題として認識することです。ペーパーレスはそのきっかけとして非常に有用でした」