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AIエージェントの現況・課題はSaaSブームの頃に似ている──企業が構築すべき次世代のIT環境とは?

Mulesoftの幹部が予測する、AIエージェント運用で顕在化するニーズ

海外ではマルチエージェント体制を運用している企業も

 ガバナンスはユーザー体験の質にも関係する。たとえば、エージェントに旅行の予約を頼んだとする。最終的に購入ボタンはユーザー自身がクリックするとしても、プランを提示するまでには外部サイトだけでなく、ユーザーの個人情報にもアクセスする必要がある。この時ガバナンスが適切でなければ、誤った情報を提示したり、正しい情報でも別人へ提供してしまったりといった事故が発生するリスクがある。エージェントがどのシステムにアクセスするか把握し、適切な方法でデータにアクセスしているか、挙動は適切かをモニタリングする仕組みを整備しなくては、ビジネスでの実運用に耐えられない。

 海外に目を向けると、先行事例の中にはマルチエージェント活用に取り組む企業も出てきた。そのうちの1社が、ベルギーを本拠地とするテクノロジー企業Barco(バルコ)である。同社は、アプリケーション環境の複雑性を解消するためにMuleSoftを導入し、API連携基盤を構築した。この仕組みを発展させ、MCPやA2Aを利用して大規模にAIエージェントを活用している。

 同社の事例で興味深いのは、大企業がフロントオフィスとバックオフィスで役割を分担しているのと同様に、ユーザーと直接やり取りをするAIエージェントとは別に、ユーザーインターフェースを持たずにバックグラウンドで動く「ヘッドレスエージェント(Headless Agent)」が協力する体制を構築していることだ(図3)。

【図3】BarcoのAIエージェントアーキテクチャ(出典:セールスフォース)
【図3】BarcoのAIエージェントアーキテクチャ(出典:セールスフォース)

 もう一社、欧州を拠点とするクルーズ会社MSC Cruises(MSCクルーズ)では、予約管理やプロモーションなど役割(ロール)ごとに別々のAIエージェントを運用している(図4)。MCPとA2A対応の恩恵を受け、同社のAIエージェントはスキルの強化も容易に行える。同社の取り組みは、ガバナンスの効いたAPI連携が、安心して能力を拡張できる基盤を提供する好例を示している。

【図4】MSC CruisesのAIエージェントアーキテクチャ(出典:セールスフォース)
【図4】MSC CruisesのAIエージェントアーキテクチャ(出典:セールスフォース)

 最後に……AIエージェントの登場でSaaSの将来性を危ぶむ意見を聞くが、アプリケーションはAIにとって不可欠なインフラだとコムストック氏は強調する。同氏は、「今起こっていることは『進化』だ。APIだけだったアプリケーション同士のインターフェースが、エージェントに変わる。MuleSoftは、お客様の環境をコンポーザブルなものに変え、AIに適した基盤へのモダナイゼーションを支援したい。Agent Fabricは、あらゆるエージェントの標準化とモダナイゼーションを支援するように設計されている。まだ変革は始まったばかりだが、お客様と協力してAgentic Enterpriseのベストプラクティスを構築しながら、Agent Fabricは進化を続ける」と今後の展望を語った。

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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