「Mythos」提供を追い風にセキュリティ環境を棚卸せよ──CISO向け「ゼロトラスト負債」返済公式
後編:公式に当てはめて、自社のゼロトラスト負債残高を算出しよう
数値の可視化=返済ではない 強制適用してはじめて計上される
以下は、架空データによるシミュレーションです。
- 自動車部品Tier1、従業員5,000名、連結売上高3000億円
- 主要サプライヤー・協力会社に、受発注と図面共有のためのVPNを提供
- 製造現場はOT/IT融合環境。生産管理と制御系が同じセグメントに同居する区画が残る
- 業務システムはクラウドシフトの途中。リモートアクセスのZTNA化は終え、経営には「導入済み」と報告済み。一方で情シス部門は、内部通信の要件が把握できずマイクロセグメンテーションに着手できていないことを認識している
- 組織摩擦:正規化後の摩擦係数 F=0.65(Forgに直すと約1.86。かなりの高摩擦)
はじき出された数字がこちらです。
| 項目 | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
| AS-IS期待損失(計上) | 48.00億円/年 | ─ |
| 返済(net・実現済み) | 6.00億円 | ─ |
| ZT-Debt残高 | 42.00億円 | 100% |
| ┗返済可能残高(返せるお金) | 13.05億円 | 31.1% |
| ┗STALLED(返せるのに返していないお金) | 24.24億円 | 57.7% |
| ┗不可避床(そもそも返せないお金) | 4.71億円 | 11.2% |
返済が12.5%(6.00億円)にとどまるのは、ZTNA化が効いていないからではありません。返せたのが南北方向(リモートアクセス)だけだからです。量として大きい東西(LAN、WANなどの拠点間通信)は、まだ手つかずです。
この会社が直視すべきなのは、42億円という残高そのものではありません。技術的には返せるのに、1円も動いていない24.24億円のほうです。残高の6割近くが、製品でも予算でもなく、組織の意思決定の滞りで塩漬けになっている。これを数値化できることが、組織摩擦係数の最大の意義だと考えています。
Forg係数を高低に振ると、摩擦が高いほどSTALLED比率は増えていきます。摩擦の高い組織では、いくら技術投資を積み増しても残高が動きません。
またもう1つ、いちばん誤解を招きがちな点が「可視化=返済ではない」という点です。負債の各項目は、以下の順路をたどります。
UNKNOWN(見えていない)→ VISIBLE(見えた)→ ENFORCED(強制適用した)
図2:可視化は返済ではない 残高が減るのはENFORCEDの瞬間だけ
クリックすると拡大します
このうち返済が計上されるのは、ENFORCEDに移った瞬間だけです。ただし、可視化に価値がないという話ではありません。可視化は返済の必要条件です。見えていないものにポリシーは書けません。ただし十分条件ではない。ダッシュボードで通信が全部見えるようになっても、それは棚卸しが済んだだけで、残高は1円も減っていません。ATMで残高照会を何度しても、借金が減らないのと同じです。
技術的にはENFORCEDにできるのに組織の事情で止まっている項目──これがSTALLEDの正体です。「可視化率90%達成」の報告が経営を安心させているものの、残高はぴくりとも動いていないのです。
なお、毎期の報告時は、信頼の残量を測る以下3つの比率を見ることをおすすめします。
- 説明可能アクセス比率(上げる):業務根拠・責任者・期限が記録されているアクセスの割合
- 期限超過例外率(下げる):失効日を過ぎてもピンピン生きている例外の割合
- 所有者不明資産率(下げる):持ち主が特定できない資産の割合
いずれも件数と比率、つまり物量の指標です。金額の残高と並べれば、「今期、信頼の総量をどれだけ返せたか」が経営との共通言語になります。
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髙岡 隆佳(タカオカ タカヨシ)
セキュリティ業界で25年以上、250社を超える実装現場に携わってきている。DBSCではワーキンググループリーダーとして、経済産業省の参考資料となったデータベース暗号化ガイドラインや内部不正対策ガイドラインを執筆している。現在はCSAでの活動を通じて「真のゼロトラスト実装」を提唱し、「ゼロトラスト負債...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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