NTT東日本が約30年来の基幹システムを刷新し、AI変革を加速──現場との一体運営が後押しに
第50回:NTT東日本 執行役員 デジタル革新本部長 CIO 山名紀さん
1万人規模の基幹システム更改を現場と一体で乗り切る
酒井:その現場力は、今も変わりませんか?
山名:そうですね。実は(2026年)8月末から9月頭にかけて、基幹システムを更改したんです。当社だけで約1万ユーザーが使うので、普通なら「使い方がわからない」という問い合わせが、私たちのところまでガンガン上がってくるはずですよね。でも今回は、ほとんどなかった。現場の皆さんが習熟を頑張り、現場を束ねるオーバーヘッドの組織がしっかり取りまとめてくれたからです。
酒井:すごいですね。どんなシステムを更改したんですか。
山名:約30年使ってきたメインフレームのEOLにともなう更改です。2019年に構想をスタートし、7年かかりました。一部は、Fit to Standardでパッケージを使い、通信事業者特有の部分はスクラッチで作りました。通信業界では、おそらくグローバルトップクラスの規模の更改だと思います。
酒井:きっと、いろいろありましたよね。
山名:本当にいろいろありました。何回も計画を変更しましたし、現場に周知した後でスケジュールを変えたこともあります。現場の皆さんはそれに合わせて準備してくれていたのに。社員に迷惑をかけたことは、本当に辛かったです。それでも皆さんが一緒に頑張ってくれたので、最後までやってこられたと思っています。
システム更改だって現場と一体となることが肝なんですから、業務のやり方そのものを変えるDXやAIは、なおさら現場の理解が必要です。特にAIは、現場の暗黙知をいかに形式知にしてAIに読み込ませるかが、日本企業の強みになる。だから、絶対に現場と一緒にやらないといけないんです。
AIファーストカンパニーへ 作成したエージェントは4万ほどに
酒井:いま力を入れているAIトランスフォーメーションは、どのように進めていますか?
山名:生成AIが出てきた2022年頃から、私たちもどんどん使い始めていました。ただ、当時はまだ業務のど真ん中に導入するのは難しかった。それでも、この流れは間違いなく来ると思っていました。先ほどお話ししたように、AIは現場の暗黙知を取り込んでいかなければならないので、本社主導だけでは成り立ちません。そこでまず、現場が自ら使う草の根的な活用を先行させました。
その後、エージェンティックAIが登場し、いよいよ会社の中心となる業務にもAIを組み込めるレベルになってきました。そこで2025年度からは「AIファーストカンパニー」を掲げ、トップダウンでシンボリックな全社施策も動かしています。今は草の根とトップダウンの両輪です。
酒井:現場の皆さんは、最初から協力的でしたか?
山名:二極化していましたね。それも今では、AIエージェントの数が全社で4万ほどになりました。その多くを現場のメンバーが作ってくれています。
酒井:すごい数ですね!
山名:仕掛けはいろいろやりました。まず役員全員にCopilotのレクチャーをして、トップから使っていこうと。社員向けにはTipsを作り、基礎研修も行いました。各エリアにアンバサダーを置いたことも功を奏しました。身近なメンバーがアンバサダーだと気軽に聞けるし、自分も盛り上げに協力しようという気持ちになりますよね。
それから、年1回開催している社内イベントの「現場力向上フォーラム」。当社では以前から、電柱に登って通信サービスを直すスピードや、コールセンターの応対の質など、実務の腕を競う競技を行ってきました。そこに2024年から、AIの競技も加えたんです。事業部の代表選手が戦うので、選手選びの段階から、各事業部が盛り上がっていましたね。
酒井:印象的だったAIエージェントはありますか?
山名:宮城の事業部だったと思いますが、営業のノウハウをエージェント化したものです。作ったのは、ベテランの営業と、AIは使えるけれど営業としてはこれからという若手のコンビ。身近な仲間が作ったものだから、そのエリアの業務やお客さまにフィットするし、みんな積極的に使ってくれる。いいムーブメントだと思います。
酒井:大規模な組織でAI変革を牽引するうえで、山名さんが大切にしていることは何ですか?
山名:AIはあくまで手段であって、目的ではありません。AIというと、人の業務の代替や効率化といったメッセージが強くなりがちですし、それも否定はしません。でも私たちの全社施策は、どれもお客さまの満足度か社員の満足度のどちらかを目的に据えています。誰のためのAIなのか、見失わないことが大切だと思っています。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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