NTT東日本が約30年来の基幹システムを刷新し、AI変革を加速──現場との一体運営が後押しに
第50回:NTT東日本 執行役員 デジタル革新本部長 CIO 山名紀さん
「失敗したって死ぬわけじゃない」幼少期の戦時下での暮らしが原点
酒井:ここからは山名さんご自身についてうかがいます。幼少期、イラン・イラク戦争中のバグダッドで暮らしていたそうですね。
山名:幼稚園から小学2年生までですね。空襲警報が鳴ったら布団をかぶって地下の部屋に行く。近くにミサイルが落ちて、翌日行ってみたら瓦礫の山だった。そんな日常でした。
酒井:怖くはなかったんですか?
山名:それが、あまり怖さは感じていなかったんです。父を一人で残さず、家族みんなで残ろうというのが両親の決断で、一番ひどかった時期は日本大使館の中で暮らしました。年の近い友だちも一緒だったので、悲壮感はありませんでした。地対空ミサイルで戦闘機が落とされるのを見ても、不謹慎ですが、花火みたいだと思っていました。幼すぎて状況が理解できていなかったんですね。親はだいぶ大変だったと思います。
ただ、あの経験から得たものもあります。一つは、つながることのありがたさです。バグダッドでは、電話がつながる日とつながらない日がありました。「今日はつながるみたい、日本のおじいちゃんおばあちゃんに電話しておこう」って。日本では24時間365日、基本的につながる。それは、見えないところで支えている現場の人たちがいる、ということなんですよね。
もう一つ、失敗しても「死ぬわけじゃないから頑張ろう」と心から思えること。これもバグダッドでの経験からだと思っています。
酒井:失敗というと、どんなことがあったんですか?
山名:大きな失敗がありすぎて、何から話せばいいかな(笑)。本社でネットワーク設計をしていた頃、お客さまが実際にどれくらい使うか見込み違いをして、ネットワークの容量が足りなくなったことがあります。すでに開通しているお客さまを別の装置に移す「収容替え」が必要になり、お客さまのところへ行って作業することになりました。その作業の段取りも想定が甘く、現場の方を2時間も待たせてしまい、めちゃめちゃ叱られました。現場を少しでも楽にしたくて働いているのに、真逆のことをしてしまった。それが何より辛かったです。そのときは、その地域の設備のトップだった女性の先輩が「大丈夫よ、私がなんとかするから」と言ってくれました。
もちろん反省はします。でも、いつまでもくよくよしていてもしょうがない。「死ぬわけじゃないんだから、とにかくリカバリ」と切り替える。ちょっとくらい辛くても、自分が頑張ることで会社の仲間やお客さまが良くなるなら、それがいい。

酒井:システム更改もAIも、結局は良くなるものだから、一度失敗しても落ち込む必要はないですよね。
山名:プラスしかないです。途中で諦めればマイナスで終わるかもしれないけれど、頑張ってプラスで終わらせれば、すべて成功です。
チームで成果を上げたい 私ができることは「つなぐ」こと
酒井:山名さんは、どんなCIOでありたいですか?
山名:実は、もともとリーダータイプではないんです。引っ張っていくというより、チームで成果を上げたい。人とコミュニケーションを取って方針を決めるのが得意だから、たまたまこのポジションにいるだけなんです。
そんな私がリーダーとしてできるのは、「つなぐ」ことだと思っています。私たちのビジネスは、売る人も作る人も、一つのネットワークでつながっています。事業ごとの縦割りではなく、いろんな部署と連携しないと仕事が進まないんです。だから、チームの中で人と人をつなげ、他の組織ともつなげていくのが、私の役割だと思っています。
酒井:男性が多い環境で、どうキャリアを重ねてきたのかも気になります。
山名:男性か女性かはあまり意識していません。ただ、自分の可能性を閉じたくないとは思っています。だから、ポジションの話が来たら基本的に受けてきました。それに、ポジションが上がれば、お世話になった現場により大きな恩返しができますから。
酒井:もしマネージャーを打診されて迷っているメンバーがいたら、どう声をかけますか?
山名:自分を一番愛せるのは自分です。「せっかくのチャンスを自分で潰すのはもったいないから、まず1回やってみたら」と伝えます。ついこの間も、「チャレンジしてみて、ダメだったら言ってくれれば戻すから」という話をしました。私自身、営業は嫌だったけれど、今になってみれば本当にやって良かった。やってみなきゃわからないんです。
特に女性はいろんなイベントがありますが、むしろステップアップした方が自分の仕事をコントロールしやすく、両立しやすくなると私は思っています。ただ、CIOの集まりに行くと、女性はまだまだ少ないんですけどね。
だからこそ、女性CIOとお話しするのは刺激になります。SUBARUの辻裕里さんは、定量的で大胆な目標を立てる一方で、ご自身を「CIO=チーフ・癒し系・お母さん」と言っていて、新しいCIO像だと思いました。元パーソルテンプスタッフの朝比奈ゆり子さんは、大きなシステムのローンチ後のパーティーに連れて行ってくれたんです。ベンダーさんを含めたチームの一体感がすごくて、ヒントになりました。

酒井:山名さんを見て、「こんなリーダーになりたい」と思う人も絶対いると思います。
山名:どっちもいるんじゃないですか。仲の良い後輩に「私は絶対山名さんみたいになりたくありません」と言われたこともあります(笑)。よく働くというより、よく飲んでいるので。昨日も、神奈川支店時代の現場の仲間と藤沢の祭りで神輿を担いで、1日中飲んでいました(笑)。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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