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ネットはどこへ向かうのか?ソーシャル化と電子書籍が導くネットコンテンツの未来

第9回


「インターネットというのは、すべからくオープンなものであり、自由なコンテンツの配信とアクセスが保証されているべきである」、「オープン性こそが価値の源泉であり基本原則である」という考え方がある。コンテンツのオープン化、フリー戦略といったビジネスキーワードとして耳にしたことのある方も少なくないことだろう。

「インターネット=オープンな空間」は、もはや時代遅れ?

  「インターネットというのは、すべからくオープンなものであり、自由なコンテンツの配信とアクセスが保証されているべきである」、「オープン性こそが価値の源泉であり基本原則である」という考え方がある。コンテンツのオープン化、フリー戦略といったビジネスキーワードとして耳にしたことのある方も少なくないことだろう。

 この思想は、元々インターネットが草の根感の強い学術ネットワークであり、自発的な相互協力のネットワークとして生まれてきたという歴史にも根ざしたものだ。 しかし、「インターネット=オープンな空間」という理解が時代遅れになりつつある。

 1つは、言うまでもなくソーシャルの流れ。SNSというサービスが存在感を増してきたという単体の動きを超え、あらゆるサービスがソーシャル的な特性を得つつある。もう1つは電子書籍のトレンドである。

 この潮目の変化を、仮説ではなくトレンドとして捉えた方がもはや正しいのでは、と強く認識し始めた理由は2つのニュースに求められる。1つは、Googleの電子書籍サービス、Google Editionが年内にも開始されると報道され始めたこと。そして、この報を受けるような形でAmazonもGoogleに対抗するかのごとく「Kindle for the Web」をWebアプリケーションとして、すなわちKindleというハードの縛りを緩める方針を発表したことである。

 こういった動きを見ると、Google対Amazonという図式でつい捉えたくなってしまうが、両者は単純な敵対競争関係というものではない。Amazonは、Googleが別途発表しているChrome OSを搭載したノートPCにもコンテンツ提供するとしており、手を握り合っている側面もある。

ネットは、「OpenWeb」 「Social」 「有償アクセス」の3層構造に

 話を戻したい。つまり、現在のインターネットは次のような3層モデルになってきていると考えられる。

(1)OpenWebの層

(2)Socialの層

(3)有償アクセス(電子書籍あるいはデジタルコンテンツ流通)の層

 上記の3つは、(デジタル)コンテンツへのアクセシビリティパターン類型と言ってもハズれではない。それぞれをもう少し詳しく定義してみてみよう。

(1)OpenWebの層

 いわゆる普通のインターネット。検索が可能で、誰でも見ることができるという、いつものネット風景である。

(2)Socialの層

 いわゆるSNSやゲームポータルといったソーシャルサービス群が該当する。特徴は、ユーザーが管理している自分の書き込みやファイル、ゲームアカウントなどの参照条件をユーザー自身が決めている点。つまり、ユーザーごとの相互承認の網が連鎖的に連なった構造となっており、承認の輪に入れない人は中身を一切見ることができない。

 これを事業者間の関係に転写すると、Googleの検索ロボットがFacebookを参照できない、つまりウェブ上でのコンテンツのインデックス化シェアが落ちることになるので戦々恐々としている、という昨今の競争状況の話に連なってくる。

 検索エンジンのロボットを通してあげてもいいけど、その分なんかちょうだい?となる訳であり、仮にSNS事業者が許可しても、内部のユーザーが個々の判断として、「SNS内部全体には公開しない、友人のみしか閲覧できない」と設定してしまえば検索事業者、あるいはSNS事業の運営者でさえも二次利用はできないこととなる。

 アクセシビリティ設計として読み替えると、ネットに参加しているユーザーがネット全体に公開するか(OpenWebとしての利用)か、そもそもネットにコンテンツを出さないかという二者択一だったところから、条件付き公開という中間層が作られることになる。中間層の定義はもちろん、ユーザー自身の定めた信頼ネットワーク範囲に基づいている。

 (3)有償アクセス(電子書籍あるいは、デジタルコンテンツ流通)の層

 この層は、信頼ネットワークではなく、取引ネットワークとなる。つまり、売買やSocialの層のモデルで出た事業者間でのコンテンツ参照許可のアライアンス関係など、商取引関係によりデジタルコンテンツの参照流通範囲が定められる。

 95年のインターネット元年と言える年から、オンラインで有償コンテンツは売れるのかという議論と試みは数々されてきたが、コンテンツ公開と広告モデルの方が事業として伸ばしやすい場合が多いこと、無料で見られるコンテンツが多くなってしまったところでわざわざお金を出す気分になれないといったことから、いまひとつ伸び切らないというのが大きな流れとしてあった。

 転機の萌芽は、物材を取り扱うECが普及したことによりオンラインで買い物をするという経験が一般化したことを前提として、iTunesが大規模に成立したことだろう。iTunesを皮切りに有体パッケージを持たないデータの購入という経験が普及したことで、書籍や映像などのデジタルデータとしての流通が可能な素地が整ってきた。ここに、電子書籍というテキストコンテンツにお金を払う商習慣がデジタルの世界に再度持ち込まれたことでテキストを中心としたデジタルデータの販売という習慣が成立する流れにある。

 加えて、販売パッケージとしては、ダウンロードごといくらという取引が軸だったものから、一定額払えば好きなように読み聴きしていいとのサブスクリプションモデルが組み合わさるパターンが、特に音楽方面を筆頭に珍しくない契約方法として定着し始めている。

 技術的にもクラウドの流れを受けてネットワークストレージ側のコンテンツ総量が増えていること、さらにマルチデバイスでユーザーの好きなようにアクセスできる流れが強まることで、単にデジタルコンテンツを売っている事業者がいるというよりも一つのデータ層(レイヤー)として存在感を増しつつある。

次ページへ続く

 

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Google(検索)の勝利がサービス革新の歴史の終幕ではなかった

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この記事の著者

渡辺聡(ワタナベ サトシ)

神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。現同社代表取締役。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2...

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