通信回線を使ってデータ転送
通信回線を利用した電送はPTAMに比べて物理的な操作を行わない分、絶対的に人手による手間が省ける点が優れている。PTAMの場合、トラックによる搬送中の事故やメディアの紛失、盗難などのリスクがどこまでも付きまとう。通信回線を使ってデータ転送を行う場合でも、転送中にデータが盗み見られてしまう危険は存在するのだが、高速道路でトラックが事故に遭う確率に比べて考える場合、リスクをより小さくすることが可能だ。また、回線スピードにも依存するが、概して高速にデータを転送できる可能性を持つ。つまりPTAMより鮮度が高い状態でデータを遠隔地に保管できる。
通信回線を利用する場合、PTAMで行っていた搬送作業をそのまま回線に置き換えるように、一旦バックアップされたものを回線経由で転送することもできるが、バックアップ作業と災害時対策を分離した形で直接ディスク上にあるデータを転送することも可能だ。このような使い方を可能にするのがストレージ装置に備わった遠隔コピー機能だ。
データの整合性が高い同期方式
同期方式はローカル(本番側)にあるディスクとリモート(遠隔地側)にあるディスク双方にデータが書かれた時点で書き込み終了通知がサーバーに返される仕組みだ(図12-5)。
この方式はローカルとリモートのディスク内容が常に同じになるため、リモート側でリカバリーを行う際に、最新の情報を反映したディスクをそのまま利用できることになる。従って非常に信頼性の高い災対システムを構築することが可能だ。
しかしながら同期しているということは、即ちリモート側への転送が終了しない限り、ローカルの処理が待たされることを意味するため、本番業務にある程度影響を与えることが想定される。また、ローカルとリモートの距離が離れれば離れるほど転送に関わるプロトコル上オーバーヘッドによる遅延が大きくなるため、距離を長くとりにくいという課題も抱えている。機種によって違いはあるが、ローカルとリモートの距離間隔は概ね100km以内に収めるのが常識となっている。
本番の業務への影響が少ない非同期方式
東京と大阪近辺に居られない方には恐縮な話だが、日本で災対システムを検討する場合、よく口に出されるのが東京-大阪間の災対システム構築だ。東京-大阪間の距離は約500km~600kmである。100kmも幅を持たせて表現している理由は、全てのシステムが東京駅と大阪駅にあるわけではないからだ。また、実際に利用する回線の敷設状況によっても距離の増減は起こる。
2点間の距離が500kmも離れた場合、一般には同期方式による遠隔コピー転送は困難である。もちろん、本番の業務に影響が出ても良いので、同期方式で送りたいと言うユーザーは現実に存在するが、大多数のユーザーはそうした影響が出ることを懸念するため、通常、同期方式は検討できない。
このような場合に登場するのが非同期方式の遠隔コピーだ。非同期方式ではローカル側にデータを書いた時点で即時に書き込み終了通知がサーバーに返される。その後、もしくは並行してデータはリモート側へ送られる。本番の業務への影響が最小限にできるのが非同期方式の大きな特徴だ(図12-6)。
しかし非同期方式には大きな落とし穴がある。非同期方式とは読んで字の如く同期せずにデータを転送する方式の総称にしか過ぎない。ここでユーザーが麗しき誤解をしてしまうことが多い。それは「データはローカル・ディスクに書かれた順番で、当然のようにリモートにも書かれるはずだ」という誤解である。
しかし非同期としか言っていないので、実は遠隔地側でのデータの到着タイミングは必ずしも本番側で書かれた順序であるとは限らない。こうなってしまう原因として、ストレージ機器が遠隔地側へデータを送る順序を効率的に行うために敢えて順序を変えているケースもあれば、ネットワークの構造上、遠回りをして送られてしまった前の書き込み情報が、近道をした後から書かれた情報よりも遅く到着してしまうケースなども挙げられる。
原因はともあれ、単に「非同期」と呼ばれる遠隔コピー機能を有する機器でディスクのコピーを行う場合、同期方式とは異なる運用形態を検討する必要がある。例えば、ローカル側で一旦高速コピー機能を利用してディスクの複製を行い、その後、複製されたディスク・イメージをコピーしたり、夜間の一定時間、本番業務によるデータ更新を停止させ、非同期で転送していた部分を同期させたりする運用だ。
もちろん、単純なファイルサーバーをコピーしているような場合であれば、このような細かな考慮点は無視できる。大体のデータが遠隔地保管されていればOKというレベルで十分と言うシステムも世の中には存在するため、非同期方式であるからといって絶対に運用を考慮しなければならないと言うものでもない。