スマートフォンが向いている部署、向いていない部署
スマートフォンはとても便利だ。今や家電量販店の携帯電話売り場はスマートフォンがほとんどで、各通信事業者からも新機種のほとんどがスマートフォンである。年33%成長の市場だという調査を見たのが昨年のことだが、その予測を大幅に超えて成長し続けている。新機種として登場してくる端末も、もともと日本の携帯電話が持っていた、おさいふケータイやワンセグの機能などを持った端末も多く登場しており、ますます需要が伸びていくと考えられる。
こういう状況下で「社員にスマートフォンを」という話になると、「全社員に」というように考える企業もいるようだ。しかし、スマートフォンは「携帯できる」というのが大きな特徴であるのだから、「携帯する」職種に向いているはずだ。営業、マーケティングなど外に出かけていく職種、スーパーマーケットの店長のように一カ所に、店内にいても一カ所に留まっていない職種などに向いている。
一方で、向いていない職種もある。昨年、iPadが発売された際に、爆発的に売れ、入荷待ち状態が長く続いたのが、3ヶ月もするとオークションサイトに、たくさんのiPadが売られていた。それは、「向いていない」人が購入したからだ。どういう人が向いていないのかというと、こうだ。
普段、職場ではデスクトップPCを利用している。例えば経理職。自宅でもデスクトップPCがあり、平日の移動はほとんど通勤区間のみ。通勤電車は大混雑でとてもiPadを取り出せる場所はない。そうすると、自宅でも、職場でも、移動中でも、iPadが活躍できる場がほとんどないということになる。その結果、オークションで売り払うことになってしまう。この例は実際にご本人から直接伺ったものだから、間違いないだろう。
これは企業におけるスマートフォン導入にも言えることで、業務のほとんどがデスクで行なわれている職種の方々に、無理にスマートフォンを渡しても活用しきれるはずもない。過去にソフトバンクテレコムが大量にiPadを導入したが、情報システム部門のエンジニアたちからは不評だったという。たしかに、エンジニアは一日職場にいて、しかもキーボードを使って開発をしたり、運用をしているのだから、iPadでシンクライアントを使う方法では、不便にちがいない。
つまり、部署によってスマートフォンが活用しきれない可能性がある場合は、あえて全社員に配るという判断を変える必要がある、ということになる。そして、それは部署で判断するのではなく、個別に見ていく必要がある。情報システム部門でも、頻繁に自社内を移動している人もあれば、経理部門でも全国の支店を回っている人もいる。こういう場合にはスマートフォンを活用できる可能性が高い。面倒ではあるが、こういうことの洗い出しが必要になる。イシン株式会社では、こういうコンサルティングを多く手がけているため、豊富な事例の中からその企業にあった導入を薦めることができ、こういった手間を大幅に軽減することに寄与している。
スマートフォンが欲しい人、要らない人
スマートフォンを導入するという話になると、社内は盛り上がることが多い。2011年6月に発表された、楽天リサーチの「法人のスマートフォン端末・タブレット端末導入に関する調査」でも、社員のモチベーション向上の期待と効果が報告されている。自分で買うほどではないが、会社が支給してくれるのなら使ってみたい、という社員も多いようだ。そういう社員の皆さんには、ぜひ活用してもらい、想定外の活用方法を見いだしてもらうという方法もあると思う。現場では、配布を検討する側が想定しない活用方法があり得るものだ。
一方で、「こういう新しいものを持たされるのは億劫だ」という社員もいる。これは、年配の社員に限ったことではない。リテラシーとひと言で言い切れないものだが、「せっかくPCに慣れたのに、また新しい機器を持たされるのか」と、イヤになってしまう人もいるのだ。
いわゆる2:6:2の理論というものがある。2割の社員が企業の80%の売上や利益を稼いでいるというものだ。それが正しいかどうかはさておき、上位2割にいる社員が、必ずしもこういうツールを得意としているとは限らない。もしその社員がスマートフォンを利用することが苦手だとすると、せっかくスマートフォンを導入しても、それがいい方向に行かない可能性がある。必要としない社員に押し付けても、かえって社員のモチベーションを下げてしまいかねないのだ。