『ビジネスモデルキャンバス』で分析比較する
第1回ではビジネスモデル・イノベーションのために、ビジネスモデルを把握することが重要であり、そのためのツールとして『ビジネスモデルキャンバス』とその内容を紹介した。
第2回は、実際に『ビジネスモデルキャンバス』を使って既存のビジネスモデルの分析や、新たなビジネスモデルを創出する方法について取り上げたいと思う。特に複数のグループで取り組むと、一人では気づかなかった発見があるなど、大変興味深いので、ぜひ試してみてほしい。
たとえば、クリスピー・クリーム・ドーナツは、日本でも有名なドーナツショップだ。日本では来店客に対して販売するだけだが、米国ではさらに別のビジネスモデルを持っている。効率的に大量生産するために深夜工場を稼働させ、ガソリンスタンドやスーパーマーケット等にデリバリーしている。店舗とデリバリーでは、ビジネスモデルキャンバス上の内容は全く異なるものになる。
つまり、同じリソース(KR)から発想しても、人によって異なる価値(VP)や顧客(CS)を想定することもあるのだ。そして、そこから新たなアイディアが生まれることも少なくない。
また、業種業態が異なっていても案外ビジネスモデルが同じであったり、逆に同じ業種であってもビジネスモデルが全く異なっていたりすることがある。たとえ同じビジネスを分析しても、人によって表現や捉え方が異なることが少なくない。こうした様々な違いをお互いに理解し、それぞれの視点から見えるものを共有することで、多面的にビジネスモデルを捉える機会になる。
なお、実際にグループワークをやってみると、「営業担当者は、CRに入るのか、CHなのか迷う」など、細かい部分で迷う人は少なくない。その場合は、あまり気にしないで楽しんでほしい。人によって同じ項目が異なるブロックに入っていたとしても、ビジネスモデルについての共通認識が合致していれば問題ない。大切なのは、どんなビジネスモデルを頭に描けるかということで、さらにお互いが描いたものを理解し合えることである。あくまでツールなので、厳密さや正確性にこだわる必要はないのだ。
新しい「未来のビジネスモデル」を考える
様々な企業のビジネスモデルを分析するのは面白い。しかし、あくまで目標はビジネスモデル・イノベーションなので、ぜひ、新しい未来のビジネスモデルを考えるツールとして使ってほしい。たとえば、私が行ったワークショップでは「新しい書店を考える」をテーマに、グループでビジネスモデルを考えてもらったが、短時間でも様々なものが生まれてきた。
テーマの背景として、若年層を中心とした読書人口の減少やAmazonなどECサイトの登場、コンビニエンスストアでの購買が増えるなど、書店を取り巻く環境の変化がある。その結果、小さな書店は街から消え、大型店へと集約され、店舗は少なくなる一方で売り場面積は大きく傾向がある。さらに米国では電子ブックとタブレットの普及が進み、書店の大型チェーン店が倒産するなど、大型店舗ものんびりしていられない状況になってきた。日本でも来年には同様の動きがあるといわれている中で、生き残るためにはどのようなビジネスモデル・イノベーションが求められるのか。
生き残りのための新しいビジネスモデルと聞くと構えてしまう人もいるだろう。もちろん得意な人もいる。たとえば、元ライブドア社長の堀江貴文氏は、自身の有料メールマガジンの中で毎週新しいビジネスモデルを発表している。つくづく感嘆させられるが、『ビジネスモデルキャンバス』を使えば、どんな人でも簡単に新しいビジネスモデルを考えつくことができるのだ。
どこか1つのブロックに現状と異なる内容を入れて、そこを基点に展開してみよう。
たとえば、書店の顧客(CS)に「これまで書店に来なかった人」を想像して入れるとどうだろう。たとえば「子育て中の母親」は子どもを連れて書店には来にくいだろうし、「本を読まない人」もあえて書店に足を運ぶことは少ないかもしれない。そういう人達が来たいと思わせる書店の価値(VP)とはなんだろう、どんな関係(CR)を構築できたら来てくれるんだろうと、それぞれ考えながらブロックを埋めていく。
このように起点となるブロックは、“震源地”と呼ばれている。ちょっとした“震源地”の揺れから、ビジネス全体へと波及していく可能性があるのだ。顧客(CS)のほかにも、顧客との関係(CR)をセルフサービスから会員制の読書クラブにしたり、チャネル(CH)を店からデリバリーに変えてみたり、“震源地”を変えてビジネスモデルを組み立ててみると面白い発見が得られるに違いない。
日 時 : 2012年7月28日(土) 10:00~19:00 (9:30受付開始)
会 場 : デジタルハリウッド大学院 秋葉原メインキャンバス
参加料 : 39,900円(税込)*テキスト代、ワークショップツール、懇親会費含む