ごくごくありふれた日常にさえチャンスを見出すイノベーターがいる一方で、ことごとくそれを見逃す私たちのような普通の人たちがいます。同じものを見ていながら一方は機会を見出し、もう一方はそれを見逃してしまう。この違いはどこから生じるのか?前回に引き続きインドのイノベーターであるアルナシャラム・ムルガナンサムさんの事例も参照しつつ、ありふれた日常にひそむ機会を見出すためのリフレーミングについて解説します。また、その中で、エスノグラフィーに対する間違った期待についても触れてみようと思います。

価値創造フレームワークである「ビジネスモデル・キャンバス」を、書籍『ビジネスモデル・ジェネレーション』の訳者でコンサルタントの小山龍介氏を講師に迎えて、ワークショップで解説致します。20名限定での講義+演習スタイルで開催です。
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■場所:株式会社翔泳社1Fセミナールーム(東京)
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チャンスになりそうな問題を常に探すイノベーターとそれをことごとく見逃す普通の人たち
イノベーターと呼ばれる人たちは、チャンスになりそうな問題をたえず探していて、限られた資源を有効かつ独創的に使って問題を解決する人たちです。
チャンスはどこにでもあるし、資源も身のまわりにありすぐにアクセス可能なものだけを使います。彼らは、私たちが見逃してしまっているチャンスを見逃さず、私たちが使わずにいる資源を組み合わせて独創的な解決方法を生み出すのです。
彼らの前にだけ特別な課題があるわけでもなければ、彼らのまわりにだけ特別な資源があるわけではないのです。イノベーターと呼ばれる彼らは、チャンスを見逃さない目と、限られた資源でどうすれば問題が解決できるかを探りつづける粘り強さをもっているだけなのだと思います。
前回の「インドのグラスルーツ・イノベーターに学ぶ「白紙から始める」イノベーション」という記事でも紹介したアルナシャラム・ムルガナンサムもそんなイノベーターの人でした。
ムルガナンサムさんは、大手メーカーが販売する生理用ナプキンが買えずにその使用率が10%を切っていたインドの女性たちのために、低価格の生理用ナプキンをつくる機械を発明し、ナプキンの使用率を大幅に向上することに成功しました。しかも、機械を使ったナプキンの製造作業そのものを女性たちにまかせることで、農村部の女性たちの雇用機会を創出しました。女性が新たな収入を得られ、子どもたちが学校に行けるようになり、社会を大きく変革させることに成功しています。
けれど、そんな大きな変化を生み出したムルガナンサムさんが用いたのが、自分たちの身近で手に入らないような特別な資源ではありません。むしろ身近で手に入る材料以外の何かが必要だったのなら、きっとムルガナンサムさんのイノベーションは実現しなかったでしょう。女性がナプキンを使っていないことも多くの人が認識していたはずですから、彼だけが変革の機会にアクセスできたわけでもありません。ただ、ムルガナンサムさんだけが、誰もが当たり前のこととして見逃していたものにチャンスを見出し、自らそれをつかんだのです。

一方の私たちは自分で機会を見つけ出すことをせずに、従来からある解決手段やツールの焼き直しにばかり労力をかけていたりします。
今より売れる新しいテレビを作ること、人々が考え方を変えるきっかけになるようなセミナーを開くこと、などなど。昔からある解決方法としての、テレビやセミナーのサービスの改良型をどう作り出すかということばかりに意識が集中しすぎてしまい、新しいものを作ること自体が目的化しています。
手段が目的化することで、目的に関する問いである「社会的に何を実現したいのか?」が問われなくなります。従来的な解決方法をどう作り直すかということではなく、そもそも解決すべき問題は何か?を再定義するという方向になかなか考えが及ばなくなってしまうのです。
社会に目を向け、そこに見逃している問題はないかを探るイノベーターとはまったく逆の態度です。
そんな風にして、自らチャンスをつかむムルガナンサムさんのようなイノベーターがいる一方で、私たちは誰かがチャンスを与えてくれるのをただ待ちながら身のまわりにあるチャンスを見逃してしまっているのです。
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棚橋弘季(タナハシヒロキ)
棚橋弘季(たなはしひろき) 株式会社ロフトワーク所属。イノベーションメーカー。デザイン思考やコ・デザイン、リーン・スタートアップなどの手法を用いてクライアント企業のイノベーション創出の支援を行う。ブログ「DESIGN IT! w/LOVE」。著書に『デザイン思考の仕事術』 など。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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