天才ではなく、「普通の人」がチームで価値を創造する
角:先日、『Team Geak』(オライリー・ジャパン)という本を翻訳しました。その本の第1章に「天才プログラマの神話」という部分があります。
誰もがスティーブ・ジョブズのような「天才」を崇拝したがるが、天才はその裏側にいる多くの人たちの「成果の象徴」にすぎない、という話です。プロダクトオーナーに関しても同様で、トヨタのチーフエンジニアのような「天才」なんて、そうそういるわけではありません。
プロダクトオーナーが1人で大変だったら、プロダクトオーナーを支える「プロダクトオーナーチーム」を作って、チームで役割分担して情報や要件を集めればいいのです。
西村:スティーブ・ジョブズだけでiPodやiPhoneを作ったわけではありませんね。
角:ジョブズは確かにすごい人ですが、天才のひらめきやビジョンだけでアップルの卓越した製品群が作られているわけではありません。試作品を何度も作って、「こうじゃない、ああじゃない」と言いながら作っているはずです。
西村:天才が「ぱっと」ひらめいて、失敗もなく1回で成功することはありませんね。
角:アジャイル開発もそういうことなんです。誰も1回で成功は出来ない。みんな「天才を求めすぎる病」になっていると思います。普通の人は、普通の人なりに、普通の方法でやるしかない。それは、みんなで協力して「チームで」やるってことだと思います。
アジャイル開発は攻めのシステムに
西村:ところで、「自社開発」と「受託開発」、どちら側の人に受講を薦めますか?
角:どちらにも役に立つと思いますが、「自社開発」に取り組んでいる人のほうがより役に立つ講座内容になっていると思います。
西村:角さんとはよく「金持ちアジャイル、貧乏アジャイル」という話をしています(笑)。
角:こう言うと語弊がありますが、アジャイルってなんだか貧乏くさいイメージがあるんですよね。おそらく短納期に「安く」できると思っている人が多いからだと思います。そういうことを目的にするのは「貧乏アジャイル」で、私たちはできるだけ「金持ちアジャイル」を目指したい(笑)。
アジャイル開発を導入する目的として、期間やコストの削減をあげる組織がとても多いように感じるのですが、そのような目的には向いていません。アジャイル開発はみんなで協力しながら、新しい価値を創造する開発手法です。
その裏返しとして、価値につながらない「ムダを排除する」だけですので、そこだけを取り上げて「コスト削減」という視点を持ち出すのは危険です。似ているようで大きく違うのですが、それが価値なのかムダなのかを常に考えてほしいと思います。
西村:コスト削減の視点になってしまうと、開発者の対立を生み出してしまいます。「そんなのすぐにできるでしょ」と言ったりする。
角:コスト削減そのものは否定しませんが、協力関係が築けないと意味がありませんね。何のためにアジャイル開発を導入しているのかわからなくなります。
西村:先ほど熱意の話がありましたが、コスト削減のためのシステム開発は熱意を持ちにくいのではないでしょうか。やはり「価値を創造する」や「売上を伸ばす」という観点で開発をしている場合に、アジャイル開発は効果的だと思います。
角:アジャイル開発を導入する前に、自分の視点がどちらに向いているかを考える必要がありますね。
― では最後に、ワークショップに参加予定の方にメッセージをお願いします。
角:私たちは、アジャイル開発が「いいプロダクト」を作るうえで最適な手法だと信じています。しかし、開発者だけではいいプロダクトは作れませんので、開発者以外の方にもアジャイル開発に興味を持っていただいて、今後も学びを深めてほしいと思います。是非ご自身にとっていいものかどうかを判断してください。