小野 みなさん、こんにちは。本日モデレーターをつとめさせていただきます、セゾン情報のCTOとアプレッソの社長をやっております小野と申します。よろしくお願いいたします。今日は『ITは本当に世界をより良くするのか? IT屋全力反省会』という本、反省しているのか反省していないのかよくわからない本なんですけど(笑)、まあ、非常に読み応えのある本ですね。この本の元になったのがお二人の対談なわけですけれども、そのお二人にこの対談の中身を目次に沿っていきながらですね、ピックアップしていくつか選んで話を進めていきたいと思います。内容に入っていく前に、お二人それぞれから簡単な自己紹介と、この本がどういう本なのか、まあ、まえがきとあとがきにそれぞれきちっと書いてくださってはいるんですけども、短めの言葉で、一言ずつお願いします。
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ITは本当に世の中の役に立っているのか?そもそもITなんていらないのではないか?……といった本質的な問いを胸に秘めながらも、第一線で活躍する二人のIT屋が、バズワードについて、Slerの幸せについて、データベースについて、クラウドについて、エンジニアのキャリアパスについておおいに反省したりしなかったり……エンタープライズITの現場の実情が立ち上る生々しい対話です。
Webでは読めない、神林飛志さん、井上誠一郎さんによる渾身のオリジナルまえがき、あとがき付き!
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井上 あらためまして、ワークスアプリケーションズの井上と申します。自分は基本的にはソフトウェアを作る側のベンダーという立場でいます。神林さんはソフトウェアを作る人に対して厳しい突っ込みがあるんですけれども、まあ、半分共感するところもありながら、だいぶ反論したいところもあって、今日も戦っていきたいなと思っています(笑)。で、この本の文字数を数えると、たぶん、神林さんのほうがたくさんしゃべっていると思うんですが、原稿料は同じなので僕のほうが効率がいい(笑)。
会場 (笑)。
井上 プログラマー的には短いほうが正しいので、うまく仕事をしているかなという思いはあります。今日はよろしくお願いいたします。
神林 ノーチラスの神林と申します。やっているのはオープンソース、分散系の処理を専業でやって、フレームワークを作って売っているというところです。キャリアは実はIT専業ではないです。僕はユーザー企業、それもいろんな業種を、まあ2種類ですけど、まず会計ですね、監査法人でM&Aとコーポレートファイナンスをやって、そのあとは流通っていう超ブラックなところを引き受けてシステムを作って、今度はIT側に回ってウルシステムズっていう会社に行ったんですけど、ここはまあコンサルなのかSIなのかよくわからない会社なんで、そのあと独立してやっているという状態です。本については、最初は本にする予定はあまりなくてですね、対談して、言いたいこと言ってくれみたいな話だったので、じゃあ、ちょっとネタ的にやってみますかというところで、話せるだけ話したというところですね。僕は楽しかったですね(笑)。
小野 ありがとうございます。記事もこの本もそうなんですけど、たてつけが、神林さんが「SI終わった、氏ね!全滅だー」とゴジラが火を噴くみたいな感じで焼け野原にしようとするところを、光の戦士の井上さんが「まあ、マテ」みたいな盾で受け止めて希望の光をかざすみたいな、だいたいそういう構成になっているので、ちょっとこの対談もその構成を踏襲しながらいきたいなと思っています。
今画面に出ているのが第1回から第10回までのタイトルとべージビュー数です。10回に分けてテーマがあったんですけど、それぞれどのくらいのページビューがあったのかっていうような資料です。なので、この数が多いと注目度が高かったと。まあ、途中ちょっと出てきますけど、第7回とか、1回記事が取り下げられて、また上がったりとか、下がったり上がったり繰り返しながらこのページビューを稼ぐっていう、なかなかドラマチックな展開だったと聞いています。ただ、これ全部取り上げていくと時間が足りなくなっちゃうし、中には分散系の話とかマニアックな話も入っているので、比較的皆さんに親しみやすい内容に重点的に触れていきたいと思います。
そもそも今日いらっしゃっている方ってどういう方が多いんですかね?SIerの方ってどれだけいるんでしょう?ちょっと手を挙げてもらっていいですか?あーけっこう、半分強、くらいですかね。じゃあ、SIerじゃない人たち、Web系の人ってどれくらいいるんですか?3分の1くらいいらっしゃいますね。あとは、ゲーム系とかなのか、パッケージ作ってるとかなのか、そのへんですかね。パッケージ屋さんってどれくらいいますかね?あ、何人かいますね。ソシャゲとかモバイルとかゲーム系の人は……ほとんどいないですね。まあ、エンタープライズ系の内容だからそりゃそうですよね。年齢層で言うとどうですか。40歳以下の人ってどれくらいいますか?あー、多いですねえ。この本の中には引き際の話とかですね、60歳になったら引退しろ、氏ねみたいな話とかあるんですけど、そこは割愛して(笑)、割と若めの方が中心ということで進めたいと思います。じゃあ、さっそく本題のほうに入っていきたいと思います。
AIって言うな!
小野 第1回、第2回あたりは3万から5万近く、かなり注目を集めたようですけども、その第1弾は「IT屋はバズワード使うな、ビッグデータ氏ね」みたいな感じですかね?ちょっとこれ、最初神林さんにガーってやってもらって、井上さんに「マテ!」って順番でいきたいので。じゃあ、ちょっと神林さんお願いできますか。
神林 バズワードは使うべきじゃないです。いやいや、たとえば、ビッグデータっていうのは英語として正しいって思う人、手を挙げてください。OK。ほとんどいない。じゃあ、正確な英語がわかる人、手を挙げてください。はい。ほとんどいない。ってことはわかってないってことなんですよ。a large amount of dataです。Big Dataって書いたら、大学入試にまず落ちます。まあ、使ってますよね。じゃあ、そもそも、言葉がちゃんと使えないっていうのは、エンジニアとしては僕は基本的に失格だと思います。いいですよ、マーケッターの人がビッグデータだなんだっていうのは全然かまいませんけど、だんだんそれがRFPあたりでユーザが使いだします。RFPにIoTを入れるとか。インターネット・オブ・シングスですけど、まあ、9割がたはイントラネット・オブ・シングスなんですよ。インターネットじゃねーよと。どんどん不正確になります。で、まあ、究極はAIですよね。インテリジェンス。インテリジェンス?! インテリジェンス???!
会場 (笑)。
神林 ユーザーさんがRFPで要求仕様として、たとえばAIを使うって出てくるわけですよ。そこでエンジニアの人はどうしますかって話に、笑い話じゃなくなってくるわけですよ。どこで線を引くか。この、線を引くっていうことをちゃんとやっておかないとおかしくなってきちゃうんですよね。で、挙句の果てにバグってデスマがSIが……って話になるんで、まあ、入口としてバズワードっていうのは、まっとうなエンジニアであれば、使うべきではないです。これはバズワードで仕方なく使ってんだっていう姿勢は構わない。たとえば、AIとかディープラーニングで今、日本で一番やっているベンチャーっていうと、PFI、PFNだと思いますが、彼らがAIって言っているんですよ。で、エンジニアの人に「AIって言うの、どうなの?」って言ったら、彼らは最初は使わなかった。ディープラーニングだ、機械学習だと言っていた。もう、あきらめましたと。とはいえ、今、こういう状態になっています。だからやっぱりあきらめちゃいかんのです。それは違います、という風に言っていかないと、どんどんおかしな方向に行くので。入口で締めないとっていう、そういうスタンスです。はい。
小野 ありがとうございます。一方で井上さんからすると、ワークスさんは割とこう、人工知能型ERPとかですね……。
会場 (笑)。
井上 本の中でも書いていますが、各論の部分では僕はだいぶ共感するんですよ。未定義語を使ったりすると問題もあるかなと思う一方、少し違う視点もあって、僕はだいぶここに関しては反論があります。自分自身も、もともと若いうちはミニマリストというか、いらないものをどんどん削っていくと、考えることも減るし、生活もシンプルになるし、なんか心地いいなっていう思いもありました。が、30後半くらいからだいぶ僕は考えを変えて、敢えて反論すると、神林さんのいろんなところに縮小思考を感じていて(笑)。よろしくないと思うんですよ。いろんなものを切り捨てていってシンプルにし過ぎるというのが、プログラマー的にはきれいではあるんですけども、なんか現実は違うかなと思いが強くあります。人間の欲望っていうのも、矛盾もあるんだけど、それを受け入れてのところだと思っています。すべて切り捨てていくと、一見シンプルですけど、文明とか、そういうところのストップがかかる危険な思考に感じます。そのレベルでいうと、かなり、ここに対しては違う意見を持っていますね。
小野 バズワードを使うことで、単に切り捨てるかどうかだけじゃなくて、こういういいこともあるよね、みたいな話、井上さんから見ていかがですか?
井上 バズワードを使う効果、ですよね。確かにあまりにも不誠実な言葉で騙すような内容はよくない。ただ、なんでもかんでも、こんなの今は無理だろうと言って切り捨てるよりも、技術がもたらすかもしれない可能性。実際のところ、汎用AIとか、強いAIとかいうのは実際できていないと思っていますし、AIの技術でも本当の意味での人間のように考えるものはできないと思っています。ただ、ある特定の領域に関して、十分なデータがあれば機械学習できわめて賢く人間をサポートするというのはできると思っていて、そこを我々は自分の会社でも押し通している。その可能性を今から、こんなのないよって言うよりは、未来の、こんな便利な世界がありますよっていうのを見せていきたいというのがあります。
小野 今はまだtoo muchなところがあるかもしれないけど、言葉というのはコンセプト的に掲げることでそっちに向かっていくし、吸引力的な効果も期待できる。
井上 そう!それを否定するのはおかしいなと。
小野 一方、神林さんは、吸引力とか目指す方向とか現実と違うじゃねーか、ギャップ氏ね!みたいな感じになるんですね。
神林 そうですね、ギャップ氏ね!ですね。
会場 (笑)。
神林 正確な情報が伝わらない。遊びがあるのは構わないですよ、それはいいんですけど、結果としてコアの部分が回っていかないという風になることがあるんですよ。今だったらAIじゃないですか。AI以外で統計ちゃんと使いましょうとか、そういうところはいくらでもあるんですけど、まあ、こないだ…これ社名出していいのかな、統計学が最高のナントカであるっていうのやってるナントカさんのナントカっていう会社に……
小野 西内さんですね。
神林 言っちゃだめなんですけど、そこが金集めて大変だっていう話をするところなんで(笑)、彼はAIとは言ってない。西内さんはそういう人ですから、基本的に言いたくない。ところが金を集めると、なんて言われるかっていうと「AIって言え」って言われるんですよね。それですぐ金がつくから。これどう思います?おかしいでしょう?
井上 結果論としていいものを作る可能性もありますよね。
小野 そうそう、それでお金が集まっていいものができれば。
井上 お金が回って、って意味では。
神林 いやいやいやいや、それはなんかいろんな人を騙していません?っていうのがあって、当然だから、そっちのほうが金が集まりますよって言って、いや、それで金集めるんですか?それ、あれですよ。それ会計士的に言わしてもらいますと、いろいろと「それは??!」っていうのがあって。
会場 (笑)。
神林 それを言ったら東芝さんだってね、あれでいいのかって話になるわけですよ。どう思います?
井上 先ほどの話に近いかもしれないですけど、経済を回していくという、その力が、あまりにも日本人って言い方をすると極論かもしれないけど、そこに対してストリクト過ぎて、ITの世界は競争力を失っているという側面もありませんか。
小野 とすると、井上さんから見ると神林さんはストリクト過ぎて競争力を失っていると?(笑)
井上 あまりにもこの方向にみんなで引っ張られ過ぎると、そうなるというリスクは持っているかと。
小野 まあ、神林さんくらいパワフルだと競争力とかもバーン!って。
神林 やっぱりちょっと言い過ぎはありますよね。
井上 あ、認めましたね。
神林 いや、そうじゃなくて。今だとAIですよ。
小野 そっちの言い過ぎか。
神林 AIですよ?みなさん、ちょっと冷静になりましょうよっていう話ですよ、単純に。インテリジェンスないですよね。AIで、なんですか、公共で金を付けて、人を集めて、これからはAI立国だとか、AIに負けているとか、そういう話じゃないですか。ちょっと待ってよっていうのは普通の感覚だと思いますよ。だから、確かに少しストリクトになり過ぎだっていうのはあるとは思いますけど、いくらなんでも、ここ、5~6年、はちょっとひどすぎですよ。連発ですよ。ビッグデータ、全然ビッグじゃないじゃないですか。IoTって、どこがインターネットにちゃんとつないでやってるんですか。挙句の果てにAIですよ?!ずっとそんなんじゃないですか。途中でちゃんとやるんだったらいいですけど、もう、ネタがなくなって、いい加減なこと言って、金集めてとにかく回すんだみたいな形でやって、そんな余裕あるんですか、今の日本のITに。んで、足元はどうですか。みなさん、Slerをやっている。デスマで、夜帰れないし、まだやってるし、アジャイルとか全然無理だし、そういう状態でAIやりますとか言っているのは、ちょっとまずいんじゃないですかね?っていうところです、はい!
小野 はい、ありがとうございます(笑)。
会場 (笑)。
小野 ちょっとひとついいですか?さっき、神林さんが正確じゃないっていう指摘と、あともう一個してたじゃないですか。そういう言葉の領域に行く、その前にやることがあるだろうみたいな。その前にやることって、たとえば何なんですか。
神林 あー。まあ、まず、言葉の使い方から含めて足元を見るっていうことですね。今本当に必要なものは何なのか。ビッグデータがいるんですか?IoTがいるんですか?AIがいるんですか?今の皆さんの生活、皆さんの企業活動で、あるいは会社の中のシステムを作るITとして、それは本当に必要なんですか?っていうことです。それは人によって違うと思います。ただ、少なくとも、AIではないと思います。それは違う。
井上 その瞬間はほしいと思わなくても、あとから見ると便利になっているというものはあって。本の中でスマートフォンの例を出したら、そんなものは正確にはいらないっていう話になりましたけど(笑)、だけどやっぱり便利になっているのは間違いなくて。あれはやっぱり、みんながほしいといったから作ったわけではなく、イノベーションで作っていったもの。で、AIがそうなるかわからないです。もしかしたら外れるかもしれないけども、いろんな可能性のところを、バズワードだからといってつぶしていたら、可能性そのものを消してしまうと思っている。
神林 バズワードをつぶしていったら可能性を消してしまう…僕は消えてもいいんじゃないって思っていて(笑)。
会場 (笑)。
神林 余裕がないですよ。という感覚なんですよ。
井上 日本の企業が?
神林 そうですそうです。グローバルではいいです。全体的に成長しているので。日本は、今の産業構造とか、労働人口の比率とか考えていくと新しいことがやりづらい。投資自体がしずらくなっているのは間違いないんですよ。今までの、要するに日本の経済のスタイルは投資は回収できなくてもしていいというスタンスが非常に強かった。投資回収なんてみなさん、事業計画書かれたらわかるかと思いますけど、まあ、でたらめです。まあ、でたらめでも通ったんですよ。今はなかなかリターンがちゃんと出ないと厳しいよねという時代になってきてしまっていて、投資の余裕があまりないです。で、それ嘘ついて集めるっていうのが一つのやり方ですよね。バズワード的にやると。ただ、それをどこへ使うか。そうではなくて、社会インフラ的なものがそろそろ持たなくなってきていますよ、というところに、じゃあ、IT的にどういうサポートをしてリニューアルするんだというようなことをですね、真剣にディスカッションして、考えていかないといけない。バズワードを使わないと、要するに騙くらかしてうまくやらないと回らないというのは不幸ですよ。そんなことをは大人の都合でってことはあるかもしれないけど、大人の都合って言っている場合ですか?!っていうスタンスなんですよ。
小野 おっしゃるように新しいこともやりづらいし、人口も減っていくっていう話もあると思うんですけど、人口が減っていく中で省力化しようっていうところでAIを使っているところもあると思うんです。で、現実的なAIもあると思うんです。それはいかがですか?
神林 省力化するためにIT使うのは構わないんですけど、それAIなんですか?
小野 それはおっしゃる通りです(笑)。はい、ありがとうございます。
神林 だから機械学習なりで、推論のエンジンをうまく使ってサポートしていきましょうっていうのなら僕は賛成なんですよ。やるべきだと思っていますし、実際にその手伝いもやっています。ただ、それは知能じゃないですよ。それは全然知能じゃないです。過去の経験、あるいは過去のデータから見て一定の確率が次にこれが来ますよ、あるいは過去のデータを見て、これはあなたが判断しなくても基本的にこれはこれと同じだと思うということをパターン認識的に使うっていうのは、これは全然アリ。たとえば、皆さんご存じだと思いますけど、レントゲンの写真ですよね。ガンの発見。非常に精度が高くてデータが増えているんですけど、データ量が多くて見られないんですよ。スキャンする量が今まで以上に増えて、いろんなデータが取れるようになったんですけど、みんな見る暇がない。それは、AIを使って、これは過去、これは確かにガンだったよねってことがわかるのであれば認識しましょう。要はそうすると、サポートもできるし、間違いも減るんですよ。それは絶対やるべきです。でもそれは知能じゃないですよね。っていう話ですけど。
井上 それを、便利な言葉で強いAIとか弱いAIとかいろいろありますけれども、そこをAIと呼んじゃいけないんですか?今みたいなマシンラーニングとか。
神林 うん。AIじゃないですね。だって、AIってちゃんとした人工知能で、知能とは何かって定義をした上で……
井上 AIってでもまともな定義ないですよね。今のところ?
神林 あー。だから使う?
井上 うん。
会場 (笑)。
井上 そこはマシンラーニングと呼んでもいいですかね?
神林 ええ。マシンラーニングでいいんじゃないですか。マシンラーニングじゃダメな理由が知りたいです。AIにしなきゃいけない理由。なぜですか?
井上 夢が見られるから。
神林 いやいやいやいやいや……(笑)。
会場 (笑)。
井上 まあ、そこで多少バランスの点であいまいさと不誠実さがあるかもしれません。ただ、何でもかんでもストリクトに否定しすぎるのも危険かなっていうのも僕はけっこう気になるんですよね。
神林 どうなんですかね?
小野 そこのバランスの着地が見えないからこそ対談が成立しているので、あの、非常にいいまとまり方だと思います。
会場 (笑)。
小野 これだけで10分経っちゃったんで次行きましょう(笑)。