カスタマイズ方針を巡る裁判の例
(東京地方裁判所 平成24年5月30日判決より)
販売・生産管理システム開発を計画したユーザ企業が、パッケージソフトを使用したシステムの開発を提案したベンダと契約を結んだ。開発は、細分化され順次、個別契約と納品が繰り返される形式で実施されたが、先行して納品されたシステムからは本稼働後に数々の不具合が発覚し、結局、実施中の開発プロジェクトは中止された。
ユーザ企業は、ベンダに対して既払い金の返還等、約1億9000万円の支払いを求めて訴訟を提起した。
本稼働後に次々と不具合が起きたために、プロジェクトが中止となったということですから、これ自体はシステムの障害に関する訴訟に見えますが、その後のユーザ企業の主張を見ると少し事情が違うようです。
カスタマイズ型だったのか、フィッティング型だったのかが争点に
実は、ユーザ企業はシステムの障害を問題にしたのではなく、元々の原因として、ベンダ企業が「当社のビジネスモデルに合わせてシステムを構築するだった基本方針を無視して、パッケージソフトに業務を合わせるような開発を行ったために多くの問題が発生し、結果として多くの欠陥やユーザの要望と合わない機能が発生してしまった。」と主張しています。つまり、この開発はカスタマイズ型だったと言うのです。
これに対しベンダ側は、この開発がパッケージに業務を合わせる、いわゆるフィッティング型だったと主張します。その証拠に、キックオフにおいてユーザ側の事業部長が「(当社の)業務フローと標準パッケージが合わない部分は,我々の業務をパッケージに合わせる」という方針を書面にして配布していたのです。
実際のところ、おそらくキックオフにだけ顔を出して後は現場に任せていたであろう事業部長の言う“パッケージソフトに合わせる”というのが、どこまでコンセンサスを得ていたのか分かりません。仮に大方針としてそうだったとしても、全ての詳細な操作やプロセスについて事業部長が把握し、それも含めてカスタマイズしないといったとは考えにくいところです。むしろ、現場でベンダの技術者とやり取りをする担当者達が、カスタマイズ型だと考えていたなら、その方が現実に合っていたのかもしれません。この開発はフィッティング型だったのか、カスタマイズ型だったのか。裁判所は、どのように判断したのでしょうか。
少し補足をすると、このベンダも開発中には明示的に、これがフィッティング型だとは言っていなかったようです。どちらかと言えば、ユーザ側の担当者とともにカスタマイズ型を前提に進めていたのかもしれません。もし、フィッティング型であるなら、パッケージの持つ機能全体について入念に説明をしないと、業務をそれに合わせることなどできないのですが、そうした説明を行った様子もありませんし、契約書にもスケジュール等プロジェクト管理資料にもフィッティング型の開発であることを連想させるような文言はなかったようです。それを踏まえて、判決文の抜粋をご覧ください。
(東京地方裁判所 平成24年5月30日判決より<つづき>)
ユーザ企業の指摘するように、ベンダからパッケージソフトウェアの機能について説明がなく、契約書やその他資料にフィッティング型開発であるという記述がないという事情があるとしても,これらをもって,ベンダがカスタマイズ型の基本方針を提示したなどいうことはできない。むしろ,ベンダの最終提案書は,その記載内容からみて,本件新システム構築の基本方針をフィッティング型とするものであることは明らかであり,これにより本件新システム構築の基本方針の説明義務を尽くしているというべきである。