予想できない災害が発生している
「ここ2、3年は、頻繁に災害対策の話をしてきました。その中でさまざまな災害のアラートを挙げてきましたが、ここ数年はそれが現実のものとなっています」と語るのは、アクロニス・ジャパン セールスエンジニア マネージャの佐藤匡史氏だ。とくに最近、新たな災害となっているのが「雨」だ。2015年には関東・東北豪雨があり、その際に今後は雨、風も災害に発展する脅威となり得ると佐藤氏は指摘していた。この警告は半信半疑のところもあったが、2018年7月には西日本豪雨が発生、これは「激甚災害」に指定された。
また2018年の台風12号は今までにはない逆行のルートをとり、21号は25年ぶりの強さで関西空港が一時使用不能にもなった。「日々災害の状況は変化しており、決して良い方向には向かっていません」と佐藤氏。気象災害だけでなく、地震災害も深刻だ。2018年6月に大阪府北部地震が発生し、さらに北海道胆振東部地震では全道停電という予想だにしなかった被害も発生した。
「現状で南海トラフ地震の30年発生の確率は72%です。南海トラフ地震が発生すると、太平洋側の広い地域で大きな被害が出ると予測されています。そのため仮に東阪2箇所にデータセンターを置いていても、同時に両方が被害に遭うかもしれないのです」(佐藤氏)
ならばもっと南に行くのか、あるいは北に行くべきか。だが、すでに熊本地震があり、北海道胆振東部地震もあった。いつどこで大きな地震が発生するかは分からない。それが日本列島の現実だ。
IaaSで5分以内に災害対策用サーバーが動き出す
多くのデータセンターは十分な耐震性があり、電源の二重化などの対策も採られ基本的には安全だとも考える。確かに今回の北海道の地震では、さくらインターネットの石狩データセンターが全道停電の中でも稼働し続けることができた。2系統あった電源が両方ともダウンしたが、48時間運用できるように用意してあった非常用電源を使いトラブルを回避できたのだ。
石狩データセンターは今回、震源から離れており地震そのものの被害がなかった。また停電もその後順次回復したこともあり、事なきを得たのだろう。しかし、全てのデータセンターが、今回のさくらインターネットと同じ対応ができるとは限らない。さらに直接地震の被害を受ければ、データセンターの運用を継続するのにさらに厳しい対応を迫られたはずだ。
そして今回の地震から得られた教訓の一つが、停電が大きなトラブルを招きかねないことだ。そしてこの大規模な停電の可能性が昨今高まっている。地震だけでなく異常気象で発生する落雷で、都心部でもいとも簡単に停電が発生している。また豪雨で電源関連施設が水没すれば、長期にわたり電気の供給ができない事態も発生するだろう。
このように予想できない災害を目の当たりにし、従来の対策では十分ではないと考える企業も増えている。リージョナルプロダクトマーケティングマネージャの古舘與章氏は「実際に災害対策に関する問い合わせが、ここ最近かなり増えています」と述べる。災害対策用に用意した遠隔地の拠点が使えなくなることは、容易に想像できる。そのため、これまでの災害対策プランを再考する動きが出ているという。「先行する企業では、日本の東、西だけでなく複数拠点に目的を持ちデータを保持すべきだと考え始めています」と古舘氏は言う。
複数拠点にデータを持つ際に、その一つにクラウドを選ぶことは当たり前だ。アクロニスでは、そこからさらに一歩進めたソリューションを用意する。「今後、さまざまな災害で長期的に電源が断たれることが予測されます。仮に別の場所にデータだけを保管していても、それだけではシステム復旧ができないことも多いでしょう。別の場所ですぐにシステムを復旧させ、ビジネスを再開できるようにする必要があります」と佐藤氏。これは大企業だけでなく、中堅、中小規模の企業でも考えておくべきだと指摘する。
もともとアクロニスでは、遠隔地にバックアップを取得するソリューションを提供し、データを守る必要性を啓蒙してきた。しかし、昨今の大規模災害の状況を考慮し、容易に災害対策でビジネス継続までできるソリューション「Acronis Disaster Recovery Cloud」を新たに提供することにしたのだ。
「アクロニスではすでに5年以上にわたり遠隔地でのバックアップサービスを提供してきました。その経験をもとに、より気軽に実現できる災害対策ソリューションを提供します。大企業が手間とコストをかけ実現するものという災害対策のイメージを、これで覆すことができるでしょう」(佐藤氏)
クラウドにバックアップを取得する仕組みにはさまざまなものがある。いざそれらでオンプレミスに復旧しようとしても、実はそう簡単ではない。復旧用の環境を新たに用意し、クラウドからバックアップを取得して復元作業を行わなければならない。システム規模が大きければバックアップサイズも大きくなり、クラウドからそれを取得するだけでもかなりの時間がかかる。
アクロニスの新たなディザスタリカバリ機能では、これらの課題があるバックアップからの復旧を容易に行えるようにする。アクロニスが用意するIaaSの基盤に、取得したバックアップを適用してすぐにシステムを復旧して使えるようにするのだ。アクロニス独自の技術使うことで、バックアップデータを直接IaaSのサーバーに適用する。それにより、バックアップデータ全てを復元する必要がなくなり、復旧サーバーは通常5分以内で稼働できるのだ。
「ディザスタリカバリ機能では、仮想化のテクノロジーが動いています。復旧するシステムを動かすのに必要な最小限の情報だけをまずはバックアップから高速に取り出しシステムが動くようにします。残りは順次バックグラウンドで戻します」(佐藤氏)
バックアップから全てを戻して復元するとなれば、同じクラウド上のIaaSでも時間はかかる。しかしこの仕組みであれば、5分以内でとりあえずサーバーが動き出す。さらに復旧作業は、ほぼ自動化できるのも大きなメリットだ。実際に災害が発生すれば多くの人が被災し、ITシステムに精通したエンジニアが復旧作業を行えるとは限らない。誰でも簡単に5分以内にシステムを復旧できることは、ビジネス継続ではかなり重要になる。ここまでの災害対策を準備している企業は、大企業でもそれほど多くはないという。
クラウドバックアップの先を行く災害対策を
今回アクロニスが提供するディザスタリカバリ機能は、既存のアクロニスのクラウドバックアップ機能と復旧機能の間に位置する。「バックアップとディザスタリカバリ、そしてBCPがセットになったソリューションです」と佐藤氏。ブラウザの管理画面では、ディザスタリカバリをクリックするだけで、アクロニスのIaaS上にシステムが復旧する。この時に、たとえばサーバーの起動の順番などを記述したスクリプトを自動で動かすことも可能だ。
ディザスタリカバリ機能のもう一つの特長が、テスト機能が用意されていること。災害対策の構成をSIなどで手間をかけ構築しても、実際に本番から切り替えテストを行うのは簡単ではない。災害対策はしていても十分なテストが行えないために、いざ切り替えの際に手間取ってトラブルが発生することも予想される。アクロニスのディザスタリカバリにはテストボタンがあり、それをクリックすればすぐにフェイルオーバーのテストがすぐに行えるのだ。
「AzureでもAWSでも、いくつかの機能を組み合わせることでシステムバックアップを用いた災害対策構成を作ることができるでしょう。とはいえ、それは簡単ではありませんし、テストを簡単に行うこともできないでしょう」(佐藤氏)
災害対策の仕組みをSIで作り込むことはできる。だが、それには大きなコストがかかり、その上でそのコストは実際に災害が発生するまで回収できない。そのため「限られたIT予算を、なかなか災害対策に充てられない現実もあります」と古舘氏。これに対してもアクロニスのディザスタリカバリ機能であれば、実際に復旧させた際に利用したIaaSの分だけのコストしか発生しない。簡単に実装できるだけでなく、コストの面からも導入しやすいサービスなのだ。
このアクロニスが提供するディザスタリカバリの仕組みは、すでに北米などでは導入実績も多い。日本では今後、主にパートナー経由の災害対策ソリューションとして提供していくことになる。さらに「データセンター事業者などにも自分たちの災害対策ソリューションの一つとして採用してもらおうと考えています」と古舘氏。アクロニスでは、この仕組みを広く啓蒙し、多くの企業や組織においてクラウドバックアップの一歩先となる災害対策が実現できるように推進していく。
注目ホワイトペーパー『簡単DR/BCPを実現 Acronis Data Cloud』(全35ページ、無料PDF)