資生堂 飯尾氏:IT投資がどのように効果を及ぼしたかを把握
資生堂の売り上げは、国内よりもグローバルのほうが大きくなっている。そのため世界を横串で見る考え方は資生堂にとっても重要であり、何を標準化し何をローカライズするかの議論をまさにしていると飯尾氏も言う。これには業務とデータの観点があり、データが可視化できないとなかなか進まない。そのため資生堂では、まずはデータを可視化しそこから共有化できるところを見出し、そこをスタートとしていると言う。
ITの取り組みとしては、守りと攻めの2つがある。DXで攻めにばかりに光が当たってもなかなか上手くいかない。守りの部分もしっかり評価する仕組みがいると、矢島氏は言う。たとえば既存システムのコストを2割も下げられれば、それはかなり高く評価をして良いだろう。一方でDXの新しい取り組みは、野球に例えるなら「4回に1回ホームランを打てれば十分」といった評価になるはずだ。
きちんと評価をしようとすれば、ファイナンスの指標、つまりかけたコストに対する効果が重要になる。「横串を指していく際のファイナンス効果をどう見ていくか、それが最低限必要です」と矢島氏。その上で人の管理も必要であり、さらにITリテラシーのようなものも管理しなければならない。営業部門などでも、ITリテラシーのレベルを上げる必要があり、そのための評価軸をしっかりと持つ必要がある。評価軸をしっかりすることは、企業としての第1歩になると言う。
多くの場合、何が攻めで何が守りかの定義ができていない。たとえばクラウドへのリフトは攻めなのか守りなのか。クラウドのリフトでも、既存システムをモダナイズするためで、そのためのコストを守りにするか攻めにするかを、多軸で定義し見ていく必要がある。これをゼロからやるのではなく、Apptioには多軸で見るためのひな形があるのがメリットだと福田氏は言う。
飯尾氏もApptioを導入する前までは、それぞれの部門がExcelなどで「IT投資としてやるべきことが何か」を管理してきたと言う。この方法では、全体を見えず共通言語的なものがないため、それぞれを足し合わせても効果が把握できなかった。共通のセオリー、考え方があって、そこに情報を入れていくことで、共通の見方ができる。最初は情報を入れるのは大変だったが、入れてみればその良さを実感できる。
福田氏はSAPでグローバル企業の日本法人を担当していた経験から、ローカルの領域を守ろうとすることもあると言う。これに対し本社側では、統制する武器がないとガバナンスを確保できない。日本が本社の場合は「協調と言うか、相手のところにどかどか入っていくのは苦手で、本社側のシナリオで強くリードすることにあまり慣れていない」と言う。協調は良いものだが、協調だけでは1つの世界になかなかなれない。踏み込むべきところはしっかり踏み込みガバナンスをかける。それに包括的に臨むべきだと言う。
飯尾氏も、ITのプロジェクト及ぼすPLへの影響を項目ごとにつかみ、「何がどう成果を及ぼすか」は、プロジェクト数が多く即座には出てきにくいと言う。IT側の武器としても、共通言語として見せられるのは大きなメリットになる。Apptioに各国のITの状況がデータで自ら入れているので、本社側が都合の良いようにデータを作るとかではなく、データの確からしさを担保するところから始めなくてよいのも大きなメリットだと言う。
ITファイナンスマネジメントは、何も驚くようなことではなく極めて教科書的なものだと福田氏。これはERPなども同様で、当たり前のことをきちんとやる。そういうレベルの話であり「是非視点を下げずに、リーダーがきちんと当たり前のことをちゃんとやろうとすれば、IT関連の人たちもやりがいを持ってやれる仕事環境になるのでは」と言う。自分自身もそう思って、まずは富士通でも1歩目を踏み出しているところだと。
TBM ITファイナンスの方法論
成塚歩 著
出版社:翔泳社
発売日:2022年2月22日
価格:2,420円(税込)
本書について
この本は、「ITファイナンスの高度化」の方法論であり、フレームワークとしての「TBM(Technology Business Management)」の国内初めての解説書。 CIOや企業のIT導入やデジタル戦略の策定を行う担当者が、IT投資を投資効果や事業価値をどう高めるか、会計と経営の指標の中でどう考えるかの方法を解説します。