使う立場からのシステム設計を徹底
兵庫県神戸市の医療法人 神甲会 隈病院は、甲状腺疾患中心の専門病院として全国的に知られている。
病床数は57床、常勤医師は外科医11名、内科医9名、麻酔科医3名、病理診断医1名という体制だ。年間約14万人の来院患者に対応し、その手術件数は年間2,000件を超える。そのため同病院は、世界的に見ても貴重な症例記録や手術実績を蓄積してきた。
ただ1998年4月に現在院長を務める宮内昭氏が香川医科大学から招かれた当時、紙ベースの記録があるのみで、履歴を活用する体制が整っていなかった。実は宮内氏は香川で症例データベースをFileMaker Proで自作していた経験を活かし、隈病院においてもFileMaker Proを用いた手術記録のデータベース作成から着手した。
宮内氏がこだわったのは「データ入力の労力を最小限にし、入れたデータはとことん使う」ことだ。たとえば手術台帳に入力すべき項目は年月日、患者の名前、年齢、性別、術前診断、手術の術式、術者、手術時間、出血量など数多い。そのすべてを医師が入力しなければならないとすれば、システム導入の効果を手間が上回ってしまう恐れがある。
そこで、一回入力したデータを、同一になる可能性が高いフィールドに自動的にコピーするようにした。もちろん予定が変更される場合もある。その場合には権限のある者のみ修正できる仕組みになっている。
「それまで病院の方がご自身で作られていたシステムが良くできていたので、本格的な設計と開発への移行がスムーズでした。もともと病院側での目的と方向性がはっきりしていました」と語るのは、同医療業務支援システムの開発をおこなった株式会社バルーンヘルプ代表取締役社長の浜地直美氏。
バルーンヘルプ社は、院長と病院側のニーズを的確にとらえ、後に述べるシステムの全体構成や、メニューを共通化しつつ権限によるカスタマイズという最適化を実現した。