IBMが仕掛ける半導体戦略、エコシステム拡充でAIニーズにどう応える 長年の研究開発を強みにできるか
VelaやAIUなどを擁し、“次世代半導体”に向けた価値最大化と地球課題解決へ
半導体の価値を最大化する「Vela」プラットフォームとは
IBM Researchが開発したVelaは、AIモデルの学習や推論に特化した、ハードウェアとソフトウェア統合型プラットフォームだ。NVIDIAのGPUを大規模に搭載し、Red Hat OpenShiftを基盤とすることで、柔軟なAI開発環境を実現している。企業や研究機関による最先端の大規模AI開発、高性能かつ費用対効果の高い推論実行などを担う。また、Velaの中核にRed Hat OpenShiftを据えたことで、IBM CloudやAWS、オンプレミスのデータセンターなど、多種多様なインフラでのAIアプリケーションの実行を柔軟にサポートしている。
IBM Researchでハイブリッドクラウドインフラストラクチャーを担当する千葉立寛氏は、「LLMなどのGPUを用いた大規模モデルを開発するために、Velaは生まれた」と話す。Velaで目指すのは「AIの民主化」であり、ユーザーがNVIDIA GPUのみならず、IBMのAIUをはじめとする多様なアクセラレーターを選択・利用できる柔軟性を重視している。

Velaでは、AIモデル開発における一連のパイプライン(データ処理、トレーニング、ファインチューニング、推論)を効率化するツール群(OpenShift AIなど)を提供。IBM watsonxのような上位サービスとも連携し、企業が保有するデータを活用したチャットアプリケーション開発などを容易にする。さらにはソフトウェア制御でワークロードに応じて最適なハードウェアを選択することで、消費電力の削減、すなわち「グリーンIT」の推進にも貢献していく狙いだ。
加えて、Red Hat OpenShiftを採用したことにより、AIワークロードのスケジューリングやリソース管理における優位性もある。ハードウェアの消費電力などの情報を監視し、ワークロードの特性に応じて、最適なハードウェアへと動的に切り替える技術も開発するなど、「(実現には)ハードウェアの詳細な理解が不可欠だった」と千葉氏。ここにこそIBMが長年培ってきた半導体開発の経験とノウハウが活かされている。
特にAI分野においてIBMとRed Hatは極めて緊密に連携しており、「IBM Researchが創出したアイデアをオープンコミュニティで育て、Red Hatがオープンソースで製品化する」という好循環が生まれているようだ。これまでRed HatにとってIBMのハードウェアは、Red Hat OpenShiftを稼働できるプラットフォームの一つ(いわゆる「One of them」)に過ぎなかった。しかし、AI分野ではハードウェアレベルでの緊密な情報連携が不可欠となるため、両社の関係性は急速に深化しているというわけだ。その上にメインフレーム時代からIBMが培ってきた仮想化技術をはじめとする、ハードウェアとソフトウェアを高度に連携させるノウハウも活かせるようになった。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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