IBMが仕掛ける半導体戦略、エコシステム拡充でAIニーズにどう応える 長年の研究開発を強みにできるか
VelaやAIUなどを擁し、“次世代半導体”に向けた価値最大化と地球課題解決へ
IBMの統合技術スタックとエコシステム戦略
先述したようにIBMは、最先端の半導体からVelaやRed Hat OpenShift、IBM watsonx、そしてIBM Automationに至るまで、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを組み合わせたオープンな技術スタックを構築している。この技術スタックを活用することで、従来コストが増大しがちだったAI活用において、人的リソースを含めた最適化を目指す。
一方、これらの技術ラインアップは多岐にわたるため、ユーザーがすべてを理解することは容易ではないだろう。だからこそ、「パートナー企業との連携が極めて重要になる。また、Velaはオープンであるため、次世代半導体を抽象化した形でハードウェアやソフトウェアのベンダー、そしてデータセンター事業社や通信事業社ともエコシステムが実現できる」と日本IBMの平山毅氏は述べる。パートナー企業は、他社ベンダーの技術も組み合わせながら、IBMの技術スタックをユーザーにわかりやすく提示・提供する役割を担う。

企業におけるAI活用、特にAIエージェントの導入が本格化していく中、Velaのようなプラットフォームが普及するには2~3年は必要だろう。その状況下、IBMは顧客に寄り添いながら、パートナー企業と共に支援していく方針だ。
また、ハードウェアとソフトウェアの連携を抽象化するレイヤーの整備を進めることで、技術進化のシナジーが生まれやすくなり、データセンターやアプリケーションを最適化するような、新たなビジネスが創出される可能性もある。これはIT業界における新しい産業形態の出現につながるものとして期待できるだろう。特に、生成AIにおける学習と推論の最適化には、大きな需要が見込まれる。既に研究部門では10年先を見据えた、新しいハードウェアアーキテクチャなどの研究も推進されており、技術進化にあわせてソフトウェアもアップデートしていく方針だ。
「企業がAIを本格的に利用するのはこれからであり、その際にはプラットフォームが極めて重要になる」と伊藤氏。3~5年後を見据えると、VelaのようなプラットフォームがAI活用シーンで主流となる可能性が高い。IBMは今後1年で、それを現実とするために取り組みを加速させていき、事業化やエコシステムの支援も強化していくという。この大きな潮流の中、Red Hat OpenShiftやVelaを介することで、Zシリーズのようなメインフレームも単なるレガシーシステムとしてではなく、AI活用プラットフォームの一つとして新たな価値を生み出していくだろう。これからの時代、ハードウェアとソフトウェアのオープンな連携こそがAI活用の鍵を握る、と言えそうだ。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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