Oracle、IaaSへ
今回のOracle OpenWorldでは、かなり多彩な新製品発表がありそうだと事前情報が入っていた。ラリー・エリソン氏はそれら発表を小出しにせず、初日のセッションで次々に新製品、新サービスを披露して見せた。まず話題にしたのが、新たにサービスを開始するIaaS。クラウドのサービスはNetSuiteがSaaSの形で1998年に初めて提供を開始し、その後PaaSが生まれ、さらにAmazonによりIaaSへと広がりを見せている。
Oracleがこの世界に参入することを発表したのは、それからずいぶん遅れた昨年のこと。参入発表は遅れたけれど、じつはFusion Applicationsのプロジェクトでは2004年からクラウドでの提供を実現すべく活動していたとのこと。それなのになぜ、発表するのにここまでの時間がかかったのか。その理由は、クラウドのサービスを提供するには「まずは強靱なプラットフォームが必要だと考えたから」だとエリソン氏。最初に基礎を作る。それがOracleのやり方だと言う。なんともOracleらしいと言えばOracleらしい理由。
そして、2011年にSaaS、PaaSのサービス提供を発表し、それから約1年経った今、IaaSの提供を発表。これは、「SaaS、PaaS、IaaSが世の中にはあり、それぞれのコンビネーションが必要だったから」とのこと。ユーザーは既存のアプリケーションを持っており、それをクラウドに載せたいという要望も持っている。これらが別々にあるのではなく、強靱な共通のプラットフォーム上に展開されている。なので、連携も容易だし、オンプレミスからの移行も、その逆も簡単にできる。これこそがユーザーが求めているクラウドのサービスであるというのが、エリソン氏の主張だ。提供するインフラは、当然ながらOracleの誇るエンジニアドシステムで提供する。それも「一番早いエンジニアドシステムの上でクラウドのサービスを販売する」とのことだ。
さらにもう1つ、クラウド関連のソリューションとして発表されたのが、Oracle Private Cloud。これは、Oracleの提供しているPublic Cloudと同様のエンジニアドシステムを利用して、顧客のデータセンターの内側に置くもの。管理運用はOracleが担当する。これもまた同じプラットフォームなので、PublicとPrivateの間を顧客のアプリケーションは自由に移行できる。この共通で標準のプラットフォームというのがOracleのクラウドサービスの特長となっている。
クラウドでサービスを展開する際、ベンダーはこれまでの20年間のIT世界を忘れていいわけではないとエリソン氏は指摘。すべてのアプリケーションは標準で書かれていないといダメだと言い、プラットフォームにはさらにセキュリティも信頼性も拡張性も必要。これはクラウドであっても同じこと。信頼性が高いプラットフォームを使っているので、Oracle Private Cloudを本番環境にし、災害対策用にOracle Public Cloudを使うと言った構成も可能だとのこと。まったく同じプラットフォームだからこそこれができると、エリソン氏は同社のクラウドサービスのメリットを改めて強調する。
Oracle Database 12cはマルチテント性をデータベースレイヤーで実現した世界初のデータベース
3つめの発表は、4年ぶりのメジャーバージョンアップとなるOracle Database 12c。マルチテナント対応のデータベースとしては、世界初のものだとエリソン氏。今後はクラウドに移行すると考え、4年前にはこれを開発することを決めたとのこと。
既存のSaaSベンダーは、アプリケーションのレイヤーでマルチテント性を確保している。マルチテント自体はもちろん悪いものではないが、アプリケーションレイヤーでそれを実現したがために、セキュリティ性が担保できないと指摘する。当時は、データベースでそれをやる方法がなかったから仕方がないものだけれど、結果的には独自の方法でレポーティングするツールを提供しなければならなかったり、バックアップも独自の方法が必要だったりするなど、不便な点が多い。
これに対してOracleでは、このマルチテナント性をデータベースのレイヤーで実現した。これは、コンテナと呼ばれる方法を用いてデータベースを分離するもので、アプリケーションにはなんら手を入れる必要なしにマルチテント化できる。さらに、リソースの割り当ても自由に行うことが可能だ。結果的に、いわゆるSaaSベンダーが儲けているようなマルチテナント性を維持するためのユーザー側のさまざまな利用制限の回避につながるはずだ。Oracle Database 12cのその他の拡張については、今後行われるさまざまなセッションで明らかになるだろう。
Exadata X3こそが真のインメモリデータベースだ
この日4つめの発表が、Oracle Exadataの新しいバージョンについて。X3と呼ばれるこのバージョンは、4TBのDRAMと22TBのフラッシュキャッシュを搭載し、トータル26TBのメモリを活用できる。さらに、データの圧縮が加わるので、「通常のデータベースならすべてメモリに載ってしまうだろう」という。そして、Exadata X3ならHeuristic Hierarchical Mass Memoryという新しい機能を使うことで、データのアクセス頻度に応じ、DRAMやフラッシュキャッシュ、さらにはディスクへと自動でデータを最適に配置することもできる。これは、さらなる効率化につながる。
Exadataでは、これまでもフラッシュキャッシュの機能を強化してきた。結果、新しい世代のExadataでは、読み込みだけでなく書き込みもフラッシュキャッシュに送ることができるようになった。これで、書き込みも20倍は高性能化する。「ほとんどディスクにアクセスする必要はなくなる」とエリソン氏。これこそがインメモリデータベースだと言うのだ。そして、インメモリデータベースというとSAPのHANAがあるが「あれはすごく小さい」と一蹴するエリソン氏。
Exadata X3は、たんに速いだけではない。これを1つのラックで実現できていることがコストにも大きく影響する。EMCにもディスクアレイにフラッシュメモリを搭載した製品が出たきたが、Exadataとは帯域幅が大きく違うとのこと。同じだけの帯域を確保するとなると、必要なディスクアレイ装置の数もたくさん必要になり、スペースも消費電力もそしてコストも大きく異なることに。
このように十分に速いExadataをさらに高性能化する努力をしているのは、まさにこのコストを下げるためだとエリソン氏。そして、今回のX3からは1/8ラックというより小さい構成も選べるようになった。これは、20万ドル以下で提供するとのこと。是非、Oracleのセールス担当に価格交渉してみて欲しいとエリソン氏。「さらに安くExadataを手に入れるだろう」とCEO自らが値下げに応じるはずだと言う。これは、1/8ラックならたくさんのExadataが売れるはず、という自信の表れと言えるかもしれない。