富士通はビッグデータ活用をITCと縁のなかった分野に適用していく
富士通は、いまやOracleにとっては特別なパートナーだ。なので、Oracle OpenWorld 2012では最高位という意味になる「マーキュリー」のさらに上、「グローバル」というカテゴリーが特別に設けられスポンサーとなっている。そのため、プロローグの日だった日曜日の夕方、エリソン氏のセッションの前に富士通 システムプロダクトビジネスグループ 執行役員常務の豊木則行氏がキーノートセッションのステージに登場した。
富士通の注力分野として紹介されたのが、ビッグデータ。「いままでICTとあまり関連性のなかった分野での活用が期待できる」と豊木氏。その1つとして取り上げたのが農業。農業生産品の品質を保証するというのは手間のかかることであり、これが実現できれば事業の安定化につながる。そのために、農業クラウドのサービスを提供しているとのこと。
天候などのさまざまなデータを収集し、そこから農作業のタイミングを見極める。そのために、計測機器や測定機器を駆使し、集められたデータを専門家と一緒に分析し活用している。和歌山のミカン農家で試験利用を始めており、育てているミカンの樹1本1本の状態に至るまで、多くの情報を収集している。集められたデータを分析することで「スーパープレミアム価格で販売できるミカンジュースの生産が行われている」とのこと。
さらには、医療分野でのビッグデータ活用も紹介、普段の生活態度や検診の結果データなどを収集し、そこから将来の病気発症の予測ができるようになるとのこと。富士通としては、ビッグデータの活用でビジネスにどのように貢献するかが課題。ビッグデータから行動をパターン化し、その結果から導かれる活動をビジネスに意味のあるものにすることを目指すとのことだ。
スーパーコンピュータの技術も利用して新たなエンジニアドシステムを生み出す
富士通にとって、Oracleとのかなり密なる協業についても発表があった。さらなる強固なエンジニアドシステムとも言える「ホットチップ」のプロジェクト「Athena」だ。エンジニアドシステムは、ハードウェアとソフトウェアを融合させ新たな価値を生み出すもの。ハードウェア部分でさらに1歩踏み込み、中核とも言えるCPUにソフトウェア技術を取り込むというもの。
このAthenaには、スーパーコンピュータ「京」の技術が取り込まれており、4つのプロセッサに2テラバイトのメモリを搭載したものが1つのビルディングブロックで、シングルシステムとしては32TBのメモリを搭載可能だ。冷却方式には、「京」でも実績のある水冷を採用している。このCPUに、圧縮や暗号化などOracleのさまざまなオペレーションを高速化するためのソフトウェア処理機構を搭載する。
Athenaについては、記者向けに別途説明を受ける機会があった。CPUの基本的なアーキテクチャはSPARC 64を継承しており、搭載したソフトウェア機構を効率的に利用するための命令が追加されているという構造。搭載したソフトウェア機構を活用して高性能な処理をしたければ、追加された命令を使用するようにOracle Databaseは拡張する必要はある。このように、Oracleとの協業でソフトウェア処理機構の部分は作られているが、プロセッサ自体は汎用のものであり、Oracle専用ということではない。
なので「従来のSolarisの環境で動くソフトウェアであれば、すべてそのまま動く」と豊木氏。つまり既存のSPARC Solarisで動くソフトウェアでもこの追加命令を利用するように書き換えれば、Athenaの高性能を享受できるということだ。
富士通としては、来年にはこのAthenaを搭載したサーバーの提供を開始したいとのこと。すでに各種ベンチマークテストも行っており、CPU上のソフトウェア処理機構を利用すればかなりの高速化が図れることが分かっている。Athenaを搭載したサーバーについては、富士通、Oracleの双方で同様なサーバーを作りそれぞれが別々に販売することになるようだ。
UNIXでの協業時代には、OSのSolarisまでは協業枠組みに入っていたが、データベースはその外側にあった。トータルのシステム完成度を高め、より高性能化するためには、データベースも含め協業する必要があると判断したのが、Athenaプロジェクトを進めた背景だとのこと。ここ最近は、SPARC Solarisの競争力が若干落ちていると豊木氏は認める。Athenaプロジェクトについて、今回のOracle OpenWorldというタイミングでその詳細を明らかにしたのは、既存のSPARC Solarisのユーザーに将来の不安はないことを示す目的もあったとか。そして、このAthenaで、おもにIBMに奪われているUNIXのシェアを奪還したいとのことだ。
エンジニアドシステムを突き詰めていくと、よりプロセッサに近いところでデータを持ち処理する、というのがシステムのボトルネック解消に大きく貢献することになるだろう。
今後はこのチップにソフトウェアの処理を載せてしまうというのは、ビッグデータの処理を高速に行いたいといった目的の達成には欠かせないものになるだろう。
ビッグデータ時代には「In-Memory」が主流となると思っていたが、すでに時代はその先に進んでおり、今後は「On-Chip」が新たな潮流となるのかもしれない。