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オープンクラウドの基礎知識

オープンクラウドの基礎知識[2] パブリッククラウド市場を取り巻くビジネス環境とオープンクラウド


米Amazon.com傘下のAmazon Web Services(以下、AWS)がサービスの拡充とエコシステムの形成によりクラウド市場のマーケットをリードしている。マイクロソフト、グーグルなどもエコシステムに力をいれており、クラウドエコシステム間の競争が加速している。

急速に成長するパブリッククラウド市場

 クラウドにおいて今後の急速な市場成長が見込まれるのが、パブリッククラウドの市場だ。調査会社IDC Japanは2012年11月5日に発表した「国内パブリッククラウドサービス市場予測」によると、2012年のパブリッククラウド市場は前年比46.0%増の941億円、2016年には3027億円に達すると予測している。

 AWS、マイクロソフト、グーグルなど、クラウドサービスを提供するクラウドネイティブ事業者は、クラウドサービスそのもののサービスや機能拡充だけでなく、自社のクラウドにつながるサードパーティを呼び込み、健全性を確保しつつ影響力のある巨大なクラウドエコシステムを形成することで、市場への競争力とプレゼンスを高め、パブリッククラウド市場の成長を後押ししている。

アマゾンのクラウドエコシステム

デファクトスタンダードの道を駆け上るAWS

 パブリッククラウドにおけるIaaS市場は、AWSのクラウドサービスがマーケットリーダーとして市場を牽引している。調査会社のガートナーが2012年8月18日に発表したパブリッククラウド事業者を対象とするリポート“Magic Quadrant for Public Cloud Infrastructure as a Service”によると、AWSは「リーダー」のポジションに位置付けられている。

 AWSはこれまで、多くの機能向上とサービスを提供し、2012年11月までに150を超える新サービスとアップデートを発表、さらには、過去6年間で20回を超える値下げを実施するなど、顧客からのフィードバックや規模の拡大により持続的なイノベーションを生み出している。

 AWSの導入実績は、世界190か国、数十万を超えるユーザーに利用されており、クラウドストレージの「Amazon S3」は2012年6月に格納するオブジェクト数が1兆を超えことが話題を集めている。

 AWSは、東京リージョンが世界各地のリージョンの中でも最速の成長を遂げていることから、日本市場での普及も加速している。日本の導入事例では、これまではスタートアップ企業や、クックパッドやgumiなどのWebサイトやECサイト、ソーシャルゲームなどのコンシューマ向けのサービスに採用されてきた。

 2012年からは、金融機関をはじめとしたミッションクリティカルで高い要求が求められるエンタープライズ領域での採用も急速に進んでおり、2013年はエンタープライズのプライベートクラウドの領域とも競合する機会が増加していくことが予想される。

AWSのクラウドエコシステム

クラウドネイティブ事業者は、
巨大なクラウドエコシステムの形成を強化。
クラウドエコシステム間の競争が加速している
 クラウドネイティブ事業者は、巨大なクラウドエコシステムの形成を強化。クラウドエコシステム間の競争が加速している

 AWSは、これまでさまざまな新サービスとアップデートを繰り返し、イノベーションを生み出しているが、その際に重点を置いているのは、クラウドエコシステムである。AWSのクラウドビジネスの展開においては、自社のサービスの拡充を図ると共に、独自APIを提供し、コミュニティーなどを通じて多種多様のサードパーティを取り込み、独自のクラウドエコシステムを強力に展開している。

 日本においては、AWSのユーザー会「AWS User Group Japan(略称JAWS-UG)」などによるコミュニティー戦略でユーザーのすそ野を広げるとともに、ビジネスパートナー企業となるAWSソリューションプロバイダーに力をいれ、エンタープライズ向けへの販路の拡大を図っている。

 JAWS-UGのコミュニティーは各地で広がりを見せ、2009年は東京のみだったのが、2010年には名古屋、大阪、福岡、札幌、2011年には女子会が立ち上がり、金沢、仙台、京都などの地域で立ち上がり、その後も全国各地で広がりを見せ、その拡大とともにAWSの利用者を拡大させている。

 AWSは、AWSソリューションプロバイダーを重要なエコシステムを支えるプロバイダーと位置づけ、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)47社やシステムインテグレーター(SI)41社およびAWS Direct Connect サービス(専用線接続サービス)をサポートするAWS Direct Connect ソリューションプロバイダー5社、AWS グローバルストラテジックパートナー9社の4カテゴリで総勢100社(2012年12月31日現在)を超える事業者が参加し、強力なエコシステムを構築している。

 AWSのスタンスは、ユーザーが求めているサービスの最大公約数に重点投資をし、それぞれのサービスのコア技術を提供している。そして、APIを公開することでユーザー自身が開発できる環境を用意し、足りない部分は国内では約100社、世界ではRightScale、heroku、applog、Engine Yard、enStratusなど1,000社を超えるパートナー企業を通じて、ユーザーニーズにあわせたサービスの構築を実現している。

 また、AWSは2012年6月、パートナー各社に必要な技術情報の提供と販売やマーケティングをサポートするグローバルプログラムである「AWSパートナーネットワーク(APN)」の開始を発表。AWSは、APNのグローバルプラグラムの提供により、グローバルベースでのエコシステムを展開している。

エバンジェリストの存在感

 エバンジェリスト(Evangelist)の存在も、コミュニティーやビジネスパートナーにおいての重要な役割を担っている。エバンジェリストとは、本来の意味はキリスト教における伝道者のことを指しているが、IT業界では、自社のサービス・商品・ノウハウなどを、講演や執筆セミナーなどを通じて、顧客やパートナーなどに広くわかりやすく説明する人を指している。エバンジェリストは、技術やサービスに精通したエンジニアや開発者が多く、正式な職位として採用する企業も外資を中心に増えている。

 アマゾン データサービスジャパンでは、玉川 憲氏、堀内 康弘氏の2名がエバンジェリストとして活躍している。エバンジェリストがコミュニティーへの影響力を強め、さらには自社のクラウドサービスの認知度向上に大きく寄与している。

将来顧客となるスタートアップ企業を囲い込む

  クラウド事業者の多くは、スタートアップ企業を支援するために開発者向けのコンテストなどを開催し、優秀な開発者には、開発支援や投資支援、コワーキングスペースの提供、そして、クラウド環境の提供を行うなど、将来の成長が見込まれる顧客に対しての支援を行っている。

 スタートアップ企業の間で注目されているのが、リーンスタートアップという手法である。リーンスタートアップとは、ベンチャー企業が事業を立ち上げていくにあたって、短期間で仮説の検証と事業の方向転換(ピボット)繰り返すことで、サービス展開可能なビジネスモデルを発見するプロセスである。新規事業を立ち上げるにあたって、設計に時間をかけるのではなく、アイデアをすぐに小さい段階で実践に移し、ユーザーからの声で方向転換や事業を加速させていくというモデルとなる。

 リーンスタートアップとクラウドとは親和性が高く、企業の成長や事業拡大にあわせてコンピューティングリソースの増減が可能となり、より効率的なリソース環境でサービス開発ができ、自社のコア業務や顧客の利益になる業務に集中することが可能となる。

 AWSなどのクラウド事業者にとっては、斬新なアイデアを持ち開発力を持つスタートアップ企業の開発支援を行いうことで将来の優良顧客を取り込み、自社のクラウドエコシステムに取り込んでいくことが、クラウドビジネスの持続的な成長と、競争優位の源泉の一つとなっている。

AWSのクラウドビジネスの躍進はクラウドエコシステムに

 AWSは、コミュニティーによるすそ野の拡大、ビジネスパートナーによる販路の拡大、エバンジェリストによる普及推進、事例紹介やイベントセミナーの開催、スタートアップ企業の囲い込み、本章では紹介しなかったがマーケットプレイスの拡大や日本向けのローカライズを進めることで、少人数の社員でも最大の販売成果を発揮するエコシステムを形成している。

 AWSは、新サービスの提供やアップデートの情報が注目されるが、AWSのクラウドビジネスの躍進は、むしろこの一連のクラウドエコシステムが支えているといえるだろう。

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マイクロソフトのクラウドエコシステム

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この記事の著者

林 雅之(ハヤシ マサユキ)

国際大学GLOCOM客員研究員(NTTコミュケーションズ株式会社勤務)1995年NTT(日本電信電話株式会社)入社。地方で中小企業の営業ののち、マレーシアにて営業および国際イベントの企画・運営を担当。NTT再編後のNTTコミュニケーションズでは、事業計画、外資系企業や公共機関の営業、市場開発などの業...

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