とはいえ、「握手する姿は想像できない」
これら2つの協業は、業界を揺るがすニュースではあるが、その意味合いは大きく異なる。まずはMicrosoftとOracleの提携だが、こちらは本質的にはHyper-Vという仮想化環境をOracleがサポート対象プラットホームに正式に加えたというもの。これだけであれば、サポートレターなりで告知し、Web上のサポートプラットホームに関する記述を1、2行追加するだけでもよかった。そもそも、今までだってHyper-Vの上でOracleのソフトウェア製品群はとくに問題なく稼動していた。ただその場合に、Oracleから正式なサポートが受けられなかった。それが今回、正式にサポートになった。ただ、それだけのはずだった。
ところがCEOや社長を登場させ、2社の提携という大きな発表にまで発展させた。それも今までは宿敵同士で、お互いを罵り合ってきた2社がだ。この裏には、クラウドサービスで先行するAmazon Web Servicesの存在があった、というのが業界筋でのもっぱらの噂だ。さらに、Google Apps以外にもエンタープライズ向けのクラウドサービスに進出してくるGoogleという不気味な存在もある。これらに両社が気になる共通の存在に対抗する思惑があり、それが一致したがために宿敵同士の提携に話は膨らんだのだろう。
大きな発表と相成ったが、実際に両社が密に協力するとは思えない。たとえば、Azureの上でOracle Databaseを積極的に売るといった動きには発展しないだろう。先日行われた日本での新年度戦略発表の席で日本オラクル社長の遠藤氏は、「日本マイクロソフトの樋口社長(さらには、セールスフォース・ドットコムの宇陀社長)と現時点で握手をする姿は想像できない。日本で営業やマーケティングなど、なんらかの協業をする可能性はいまのところはない」と言う。
対する日本マイクロソフトの樋口社長は、新年度経営方針記者会見で少し前向きな発言をした。現時点では米国からなんらこの提携に関する方針なり指示なりは降りてきていない。とはいえ、両社で顧客にサービスを提供する以上、密な技術的なやり取りなどは必要になるだろうと。「顧客から見て、両社がバラバラであってはいけない」とも言い、この件が今後どうなるかはまだこれから先のことだと含みを残した。ある意味で本音を漏らしたのは、遠藤社長のほうだろう。樋口社長の言葉にはもちろん嘘はないが、多少優等生的な模範解答といった感はある。
実際のところ、この2社が営業やマーケティング面、さらには技術面で密なる協業を進めるとは思えない。なので、今回の提携がクラウド市場の変化に大きく影響するかというと、じつはそれほどでもないのではと予測している。とはいえ、プレイヤーがひしめくクラウド市場への牽制球としては、じつに効果のある1球だった。そして、ユーザーにとってはたしかに選択肢の増える話であり、現実解としても歓迎すべき提携であることは間違いない。
ところで今回の両社の提携で、かなりのとばっちりを受けたのはMicrosoftのSQL Server部隊ではないだろうか。バルマーCEOまで登場したので、「MicrosoftがOracle Databaseも正式にやるのだ」というイメージが表出した。これはある意味、エンタープライズ領域のデータベースとしてOracleの存在をMicrosoftが公式に認めてしまったようなもの。機会があれば、SQL Severの担当者に、今回の提携をどう見たか訊ねてみたいと思う。