リーダーの仕事は多様性を束ね、見通しを持って進むべき方向を決めること
基調講演を担当した慶応義塾大学 政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏は、大学で教鞭をとりつつ上場企業・非上場企業数社の社外取締役を務めており、アカデミズムの「経営学」と実業界の「経営」の実情の両方に通じている。そのような立場にある夏野氏によれば、日本では、経営学者が実業家には理論は分かるまいと決めつける節がある一方で、経営者は理論などを気にしない傾向が強い。
同氏はこのような現状について、次のように警鐘を鳴らした。
「日本では、論理的なバックボーンのある理論をマネジメント手法として生かしていくというアプローチはほとんど見られなかったが、何らかのシミュレーションと戦略思考をしないと企業が生き残れないような時代になりつつある。シミュレーションや戦略思考を大規模に運用していくことを早く当たり前にしていかなければならない」
夏野氏はまた、この15年間のIT発展による大きな変化として、「効率革命」、「検索革命」、「ソーシャル革命」を挙げた。個人の仕事効率、情報収集・発信能力を飛躍的に向上させたこうした革命は、組織と個人のパワーバランスに変化をもたらしている。個人の能力がこれほどまでにアップした時代に組織のリーダーが意識すべきは、全員の「一律化、平均化」ではなく、「多種多様な人材が持つ能力の最大化」であるという。
オンライン上に無限ともいえる情報が氾濫している今、多様な人材を束ねてある方向性を打ち出していくべきリーダーに求められているのは、「情報を精査し、議論を尽くせば正しい結論が出るなどという甘い見通しを持たない」ことだと夏野氏は主張する。「プロセスとしての議論の積み上げは大事だが、自分なりに会社、部、課、そしてプロジェクトの見通しを立てたうえで最後は信念を持って判断するしかない。判断があっていればそれでよいが、間違っていたら責任を取る」。
「リーダーの役割はものすごく重くてつらいものになっている」わけだが「あるリーダーが動き出せば、その他の各々のリーダーも動き出す。そのアクションが伝搬して、組織全体、社会全体の活性化につながっていく」という夏野氏は、最後に「リーダーが甘えを省くことで日本は再生できる」と参加者を激励した。