iPad登場の歴史を振り返る
2010年1月。アップルの故スティーブ・ジョブズ氏は、iPhoneとパソコンの間を埋めるものは、当時売れ行きの良かったネットブックではない、と切り捨てた。当時、ネットブックは個人向けに売れ行きは良かったものの、スペックが低く、画面が小さい割には決して軽くない、価格勝負だけの端末だった。そのため、法人で導入されることはほとんどなかった。
そこに、衝撃的な「タブレット」というカテゴリーが登場してきた。もちろん、それまでもタブレットという名称は存在した。それがWindows XP Tablet PC Editionというものだった。それは、2002年と2005年に登場しているが、名前のとおり「タブレットPC」という位置づけであり、現在のタブレットと呼ばれるものとは程遠い。
当時のタブレットPCは、普通のノートPCのタッチパネルだったこと、サイズは13インチが主流だったことから、とても重いPCであり、日本ではさほど普及しなかった。
しかし、米国など自動車文化の国ではそれなりに普及したと言えるかもしれない。特に医療面では、タブレットPCを使っている医師などが多かった。しかし、それは一部の国であって、どの国、どの現場でも普及したとは言いがたかったのが実情だった。
一方で、iPadが登場してから、ありとあらゆる企業などの法人が活用を開始した。筆者が属するイシン株式会社でも過去に、製薬会社、病院、アパレル、身回品小売、学校、ジュエリー、高級ブランド、ガソリンスタンド、製造業、建築、家電品製造販売、証券会社など、ありとあらゆる法人のiPad導入を支援してきた。
それだけ、ニーズがあったということだが、それは明らかに今までのパソコンにはなかった反響だったのだ。
iPadが確実にビジネスを変えた
本コラムでは過去に何度か書いているが、iPadが多くのビジネスパーソンの仕事を大きく変えた。ソフトウェアキーボードでは、多くの文字を入力することには向かない。社内システムのクラシックなインターフェイスには向かない。当時、Webによく使われていたFlashのサイトにはアクセスできない。
これだけ書くと、iPadが”できない尽くし”のようにも見えるが、外出時にできないことがはっきりすることによって、外出時にやるべきことがはっきりしたのだ。営業という職種であれば、「営業」という本来業務に注力すべきだ。しかし今までは、何でもできるノートPCを抱えていたことで、出先で報告書を作ったり、経費精算書類を作ったりと、営業に充てるべき時間を他のことに費やしていた。
また、出先で見積書を作れれば直帰できたのに、それができずに帰社して作る、といった企業もあった。しかし、それらをiPadをクラウドサービスと掛け合わせることで、無駄な移動時間もなくなった。
最新のiPad Proでは、ここに何が加わるのだろうか。デザイナー、クリエイター以外に利用価値はあるのだろうか。