クラウド活用は“経営戦略そのもの"
――本書の一番重要なメッセージは『クラウドのリスクを正しく理解して、積極的に使いこなす』ことです。その意図、背景をあらためて教えていただけますか。
宮脇:「正しく」というキーワードと、「使いこなす」というキーワード、この2つの意図をご説明します。 まず「正しく」ですが、企業の皆様は、各部門でリスクの考え方を勝手に解釈してしまい、同じ前提で議論が出来ていないように感じることが多々あります。クラウド導入にはリスクが伴うことは皆さん当然分かっていますが、客観的に見える化をしたうえで「皆で正しく」理解しましょうということがお伝えしたかったものです。100人いれば、100人違う感覚が出てきますので、きっちりと「見える化」して、皆で目線を合わせてコンセンサスを得ましょう、というメッセージです。
次に「使いこなす」ですが、我々はリスクの話をするので、「火の無いところに煙を立てる輩ではないか」と身構える方もいらっしゃいます。但しそうではなく、クラウドをとことん使っていただきたいからこそ、話を前に進めるためには、根拠のない不安を解消することが必要であり、そのためにはやはりリスクの洗い出しが必要なのです。目的は使いこなすこと。こうお話しをすると皆さん安心して、「こういう落とし穴があるから、これは回避しよう」「こういう落とし穴やリスクは覚悟であえて突き進むんだ」というような判断がされます。そういった意味での、リスクを把握したうえで使いましょうというメッセージです。
いまや、クラウド使わない選択肢はありません。逆に言うと、「使わないことがリスク」というメッセージを本書でも紹介しています。先進的な企業は、こういったリスクをしっかり理解したうえで、対策をきちんと講じ、どんどんクラウド化を進めて、コストメリットを得たり、柔軟性を得て、市場への製品の投入スピードを上げるというチャレンジをしています。
――クラウドのリスクというのを過剰に恐れて、頑なに使わないという企業は、いまだに多いのでしょうか。
宮脇:全社規模で反対している企業は少ないと感じますが、過剰にリスクが煽られ、クラウドを使わせないような提言がなされ、結果、クラウドを十分に活用できていない企業は多いように感じます。やはり、そういった事態を打破するためには、経営層に対して客観的かつ丁寧にリスクを説明し、きっちりと「見える化」して、「正しく」理解していただく必要があります。
――今回のお話の中に、重要なキーワードがたくさん入っていたと思います。企業の現場を数多く見られていて、クラウドをうまく使いこなせている企業、あるいは使いこなせていない企業に、なにか共通点はありますか。
宮脇:使いこなせている企業の傾向は、やはりトップダウン型です。経営層が、ある程度リスクを取ってクラウドを推進していくんだ、という方針を明確に出しているところは比較的使いこなせている傾向はあると思います。一方、経営層がクラウドのリスクを十分に理解せず、単によしなにやってくれという現場主導のボトムアップのところに関しては、なかなか進んでいかない。まさしくトップの理解と指導力というところは非常に大きなポイントです。
クラウド活用、それも特にパブリッククラウド、基盤というのは“経営戦略そのもの”なのです。SaaSを1つ選んで投資するっていうお話ではありません。これを経営戦略として、大きなことと捉えている会社と、捉えていない会社、この違いが今後大きな差になってくるのかなと思います。
――今回、どのような点を意識して執筆されましたか。
宮脇:書名に「入門」という言葉が入っていますが、クラウドに対して知見が深くない方であっても、ご理解いただける内容にするというのが、まずは心がけたことです。その中で、ある程度知見のある方が読んだときに、何か気づきが与えられるような内容にしようというのは特に意識をしました。1か所でも2か所でも、こういう観点は考えてなかった、こういう観点は参考になる、というものを各章に散らばせて入れているというところは、今回意識して執筆しました。そこは、ぜひご確認していただきたい、その目で見ていただきたいというふうに思っています。
――本書をどんな方に読んでほしいでしょうか。
宮脇:いろいろな立場の方に読んでいただきたいです。クラウドを推進している方、それをリスク管理という目線でやっている方、経営の方、要はクラウドに関与する人は、それぞれの視点でいろいろな示唆があると思いますので、ぜひいろいろな立場の方にも読んでいただきたいと思います。
もう一つ、今回クラウドを題材にしていますが、例えばクラウドをRPA、AIなどに置き換えて読んでいただければ、切り口そのものは、他の新しいこと全般に言えると思います。リスクマネジメントの考え方は特に共通するものがあります。コンテンツ、例えば「不安の理由」「法的にどうなのか」などもそうですね。クラウドそのものに直接関わらない方であっても、ITに関する新しいことを始めようとしている方にもぜひ読んでいただきたいと思います。
――確かにそうですね。こうした視点や考え方は、RPAやAIなどの新しいテクノロジーやサービスを自社で導入、推進する際にも応用が利くものだと思います。編集担当としても、本書をぜひ多くの方にお読みいただき、課題解決にお役立ていただければと思います。ありがとうございました。