コロナ禍でもDXが追い風に
パネルディスカッションに先立ち、2020年1月にSalesforce Venturesの日本代表に就任した浅田賢氏(Salesforce Ventures 執行役員 日本代表)が登壇し、2020年7月下旬から8月上旬にかけて実施した調査結果を紹介した。この調査は同年4月にSalesforce Venturesの米国チームが実施した調査と同様のものになる。B2Bスタートアップを対象に、50社の投資先企業に調査票を送付し、39社からの回答を得た。その内訳は図1の通りである。
4月7日から5月25日にかけて、日本は全国的に緊急事態宣言下にあった。調査実施期間はこの最も苦しい時期を乗り切り、2020年のビジネスの着地点が見え始めた時期に相当する。まず、渦中の実績を振り返った結果を確認すると、2月から4月にかけては6割を超える企業で当初計画の75%以上を達成したことがわかった。しかし、続く5月から7月(調査時点では見通し)にかけては、当初計画の75%以上を達成できる見通しの企業は46%にまで低下している。
未曾有の逆風の中で各社が打った手は、「コロナの影響が相対的に少ない顧客業界へフォーカス」「既存顧客のアップセルへの注力」「エンタープライズ向け営業に注力」の3つに集約される(図2)。ターゲット業界の変更は業界特化型のバーティカルSaaSでは難しいが、ホリゾンタルSaaSの場合は有効な手段と言えよう。また、4月から5月のように、強制的にリモートワークにならざるを得ない場合、新規顧客からの商談化は通常よりも時間がかかる。複数の製品を持つ企業の場合は、既存顧客へのアップセルへ注力先を切り替えることで危機を乗り切ったようだ。さらに、これまでエンタープライズ向けの製品を提供してきた企業は、SMBと比べて比較的経営体力のあるエンタープライズ向けの営業を強化する対策を講じていることもわかった。
続いて、コロナ前を100とした時の見通しを尋ねた結果を見ると、3分の1が計画通りかそれ以上の達成が可能と回答している。残りの3分の2は目標に届かないものの、計画から25%以上減少する見通しの企業は18%にとどまる。この結果と営業パイプラインについての回答傾向を見て、浅田氏は「予想したよりはポジティブで底堅い印象」と語った。商談化のプロセスはオンラインに移行せざるを得なかったが、新しい収益機会を発見したとする回答は7割を超え、ほぼ全ての企業でDXが追い風になると期待していることもわかった。
SaaSビジネスで重要指標とされるチャーンレートの動向も比較的堅調である。浅田氏によれば、今年度通期のGross Churn Rate(GCR)については、37%が「変化なし」と回答している。10%以上のGCR上昇を見込む割合は約11%に留まったという。