経済産業省や情報処理推進機構(IPA)が、ITSSリリース当時から言い続けている「経営戦略から入らなければ有効活用できない」という話を、理解できている経営者や担当の方が、あまりにも少ない現状があります。だからITSSをどう活用すればいいかが分からない、ということになり、普及を妨げる原因にもなっています。 今回は経営視点からプロジェクトを捉え、その中でどうITSSを活用するか、またプロジェクトを実際に遂行しているエンジニア一人ひとりが、どのように自らのキャリアデザインに取り組むべきかを、ITSSの考え方をもとにお話しします。
経営戦略と人材戦略
「戦略」、「ストラテジ」という言葉は、いかにも抽象的に思え、身近に感じることが難しいイメージがあります。しかし、「What」を定義し「How」を考えること、と言い変えると具体的に受け取り易くなるのではないでしょうか。
例えば3年後にどういうビジネスモデルを目指すか、また今から3年間で目標達成のために何をしていけばいいか、ということを具体的に考えることになるわけです。その3年後の姿を、売り上げや利益率などの数字で表すことが重要です。また、それを実現するために、どのようなスキルを持った技術者がどの位の割合で必要かということを定義し、現在の状況を把握した上で、その目標の姿とのギャップより、育成プラン・採用プランなどを検討する、これが人材戦略になります。
赤字プロジェクト増加の影響
IT情報誌でよく取上げられていますが、赤字プロジェクトの企業に及ぼす影響は、ますます甚大なものになっています。失敗プロジェクトで何億円もの赤字を出し、それを埋めるためにさらにいくつものプロジェクトを手がけ、そこでもまた赤字を出すという悪循環で、さらに悪化のスパイラルに入ってしまうというものです。
あるIT情報誌の調査によると、プロジェクトの成功率は、何と26.7%の低い値だということです。ですからプロジェクトマネジメントが重要だということで、優秀なプロジェクトマネージャーを如何に養成するか、また如何に獲得するか、さらに自社に如何につなぎとめるかなどの議論が絶えません。ここ数年はプロジェクトマネージャーブームのような感さえあります。
ITサービス企業が、ハードウェア中心の売り上げを立てていた時期は、ソフトウェア開発の赤字など問題にならないくらいの利益を上げていました。しかし、昨今ハードウェアは益々高性能になってきていますが、逆に価格は加速度を増して下がってきています。結果として、ソフトウェア開発での赤字プロジェクトは、完全に白日の下にさらされることになりました。
従ってよく言われる「どんぶり勘定」でのプロジェクト管理は厳しく追及され、当たり前のように厳しくコスト管理がされるようになっています。そんな中で、プロジェクトマネージャーの責任が益々重大になり、同じくIT情報誌が大手ITベンダでの調査で、技術者の10人に1人しかプロジェクトマネージャーになりたいと思っていない、という驚愕の数字を出しています。
この記事は参考になりましたか?
- IT人材育成の危機を超えて~ITSS/UISSスキル標準への手引き連載記事一覧
- この記事の著者
-
高橋 秀典(タカハシ ヒデノリ)
株式会社スキルスタンダード研究所 代表取締役。1993年日本オラクル入社。研修ビジネス責任者としてオラクルマスター制度を確立させ、システム・エンジニア統括・執行役員を経て2003年12月にITSSユーザー協会を設立。翌年7月にITSSやUISSを企業で活用するためのコンサルティングサービスを提供するスキルスタンダード研究所を設立。ファイザー、リクルート、アフラック、プロミス、ヤンセンファーマなどのコンサルティングの成功で有名。ITSSやUISS策定などIT人材育成関係の委員会委員を歴任し、2006年5月にIPA賞人材育成部門受...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア