分析処理能力の不足のために見えない真実がある
企業のCIOのIT投資に関する意向調査結果では、ここ数年にわたり、BIやEPM(Enterprise Performance Management)などが常に上位に位置している。この傾向は、昨年来の世界的な不況下にあっても変わっていない。むしろ、不況で先が見えない今だからこそ、BIへの関心が高まっているとも言える。
「現状では多くの企業は業績が悪いのを景気のせいにしています。実際のところはそうとばかりは言えない部分もあるはずです。実際、厳しい経済状況にあっても、過去最高益を計上する企業も多数あります」。日立システムアンドサービスプラットフォームソリューション本部 本部長の西條洋氏は、厳しい経済環境にあっても、企業にはビジネスを成長させるチャンスが何か必ずあるはずだと指摘する。そのためには、市場変化に追随した分析を行い、意思決定を迅速にする。その上で自身の業務改革に集中して取り組む必要があると西條氏は強調する。
これを実行するには、経営者の経験や勘に頼るのではなく、蓄積された情報を最大限に活用する、BI やデータウェアハウスが重要な役割を果たす。
ところが、従来のBI は、手に入れさえすれば経営状況がよくなる、あたかも「魔法の箱」のような印象で捉えられてきた。もちろん、BI を導入した結果、業績が上向く企業もあるが、多くの場合はそれだけではなかなか大きな変化は起こらない。「BI は魔法の箱というよりその一歩手前で、経営者に気づきを与えるものだと言えます」と西條氏。導入したBI をいかに活用し自社ビジネスを変革できるかが、BI 導入で業績を向上させられるかどうかに大きく影響を与えるのだ。
さらに、「そもそも従来のBI の仕組みでは、正確な分析を迅速に行うことすらできませんでした」と日立システムアンドサービス ビジネスコンサルティング部 担当部長の奥沢浩氏は指摘する。正確な分析が迅速にできなかった最大の原因は、BIを支えるデータウェアハウスの処理能力が足りなかったためだ。10 数年も前から、BI は企業に蓄積されたあらゆるデータを多角的に分析し、ビジネスで必要な意思決定を支援できるものだと説明されてきた。ところが、実際には処理能力の限界から、明細レベルのデータを用いた分析はできていなかった。
多くの企業の場合、明細データまで分析しようとすると、量が多すぎて処理できないため、業務や組織などでデータを分け、さらに集計してサマリーデータを作り、それを対象に分析環境を構築しているのが実態だ。たとえば小売業などでは、膨大な明細データを用いて、日ごとあるいは月単位で集計し、売上傾向分析を行っているかもしれない。しかしながら、実際には一日のなかでも時間帯によって売上傾向に大きな変化があるだろう。これを日という単位で平均化して分析していたのでは、貴重なビジネスのチャンスを見逃している可能性もあるのだ。
また、売上傾向だけを見ていたのではわからないこともある。コンビニエンスストアなどで弁当の販売傾向を分析すると、13 時以降に売上が大きく減少する傾向がデータから読み取れたとする。これは、弁当という商材がもともとそういう傾向の商品かもしれない。しかし、店頭在庫がなくなったために13 時以降の売上が落ちていたに過ぎず、時間をズラして昼休みを取得している人の需要が13時以降もあったかもしれない。これを正確に分析するには、店頭在庫情報や13 時以降の来店お客様動向の情報なども合わせて分析を行う必要がある。
さらには、天気や気温、周辺での行事などの情報も、弁当の売上には大きく影響を与える。これら関連しそうなすべてのデータを取り込んで分析を行うには、非常に膨大なデータをハンドリングできなければならない。既存のデータウェアハウスシステムでは、これは容易なことではなかったのだ。