台頭するアプライアンス製品
近年、企業向けのIT製品市場において「アプライアンス」と呼ばれるハードウェア製品が存在感を増している。かつては、ルーターやスイッチなどのネットワーク機器、ファイアウォールなどのゲートウェイ・セキュリティなど、ITシステムのインフラ部分を担う機能がアプライアンス化されるケースがほとんどであった。
しかし、ここにきて、Webサーバやメール・サーバなどの単機能サーバ、SSLアクセラレータやアプリケーション・パフォーマンス監視、さらにはデータ・ウェアハウス――といったように、ネットワークの上位レイヤに位置する機能も続々とアプライアンス化されるようになっている。
アイ・ティ・アールのシニア・アナリストである舘野真人氏は、近年のアプライアンス製品台頭の背景には、インターネットのビジネス利用の成熟度が深く関係しているとの見方を示す。
「企業ITにおけるインターネットの利用形態が単純なIPルーティングからWebアプリケーション、さらにはSOA(Service-Oriented Architecture)へと成熟化されるにつれて、ユーザー企業が抱える課題も急速に共通化されつつある。そうしたなか、複数の企業が共通で求める機能をアプライアンスとして切り出し、ワンボックスで提供するという流れが形成されている」(舘野氏)
ユーザー企業にとって、アプライアンス製品の最大のメリットは、やはり投資対効果の見えやすさだ。必要な機能があらかじめインストールされ、かつ初期設定や検証が施された状態で出荷されるアプライアンス製品は、インプリメンテーションに手間がかからず、購入直後から利用することができる。ハードウェア仕様も機能向けに最適化が図られており、ベンダーが公表するカタログ・スペックから実際の効果を想定しやすいという面もある。また、外部インタフェースが共通化されていることなどによって、入れ替えが容易であること、冗長化が図りやすいことなど、アーキテクチャの柔軟性を確保するうえでの価値も少なくない。
舘野氏は、「今後は、重厚長大なプログラムを一から作り込むのではなく、アプライアンスの組み合わせによってシステムを構築しようという動きが加速する可能性がある」と指摘する。
ユーザーの懸念を取り除くSOAアプライアンス
アプライアンス製品の特徴が、今後発揮されると見られる領域の1つがSOAである。
SOAによるシステム構築が大きな期待を集めながら、日本企業の間で十分に普及していないことは広く知られているが、その阻害要因の1つに、XML通信が抱える品質と安全性に対する不安がある。Webサービスによって手軽にデータ交換を行えることはSOA環境の大きな利点だが、その反面、テキスト・データであるXMLをサービス間通信に用いるために、パフォーマンスの低下を招きやすく、セキュリティを確保するための手間もかかるという問題を抱えている。
そうした課題を克服するために提供されているのが、XML処理に必要な機能を切り出し、専用のハードウェア上に実装した「SOAアプライアンス」である。キャッシュ技術など駆使してXMLデータの高速処理や負荷分散などを行うほか、XML特有の外部攻撃からサービスを保護するためのセキュリティ機能、アクセス権の設定やポリシーに従ったルーティングなどガバナンス機能などを実装し、アプリケーション・サーバの負荷を大幅に軽減することが可能だ。なかには、既存のアプリケーション資産をSOA環境に組み込むうえで必要となるデータ・フォーマットやプロトコルの変換もサポートする、いわば「ハードウェアESB(Enterprise Service Bus)」とでも呼ぶべき製品も登場している。
「SOAアプライアンスは、機能だけに着目すれば“XML処理の外出し”したシンプルな存在だが、Webサービス標準を利用することによる手軽さと、信頼性・安全性を両立させるうえで有益な選択肢となりうる」(舘野氏)
また、舘野氏は、今後アプライアンスを活用したシステム構築手法が一般的になるにつれて、ユーザー企業のIT部門の役割にも変化が求められる可能性があると指摘する。「従来までの“作り手一辺倒”から、自社のシステム・アーキテクチャに沿って適材適所で製品やサービスを選択できる“目利き”としての能力がより問われることになるだろう」と語った。
用途に応じた豊富なラインアップを備えるIBMのDataPowerファミリー
セッション後半では、日本IBMのWebSphereテクニカル・セールス部門でITスペシャリストを務める浅田かおり氏が、同社が提供するSOAアプライアンス製品である「DataPower」の特徴について説明した。
同製品は、IBMが2005年に買収した米DataPower社の技術を継承したもので、WebSphereブランドとして初めて提供したハードウェア製品である。製品ラインアップとしては、XML処理の高速化に焦点を当てた「XA35」、セキュリティ機能を付加した「XS40」、さらにアプリケーション連携機能まで含めた「XI50」の3製品が主力となっているが、2009年には企業間のデータ連携に特化した「XB60」、証券取引のような大量トランザクション環境においてメッセージングとコンテンツ・ベース・ルーティングの遅延を防ぐ「XM70」を新たに投入。ネットワーク・インフラの統合も視野に入れ始めている。
「WebSphere ESB」や「WebSphere Message Broker」といった同社のSOAミドルウェア製品との親和性が高いのはもちろんだが、たとえ他社のESB製品を導入済みの企業であっても、同アプライアンスを間にはさむことにより、SOA環境同士の相互運用性を確保することもできる。
浅田氏は、「DataPowerアプライアンスによって、バックエンドのアプリケーションに手を加えることなく、コストを抑えたかたちでシステムのSOA対応を図ることができる。また、ハードウェアを専用設計とすることによって、物理的なセキュリティも高いレベルで確保されている。同製品を導入することによって、ユーザー企業は、SOAに対する不安を感じることなく、サービスの開発に集中できるようになる」と、製品の利点を強調した。