CDPで実現した顧客データの把握、ヒントカードによる実績も
2021年からスタートしたプロジェクトは、2023年度には「C360」に順次データを格納・統合。最初の成果は、顧客理解における「リアルタイム性」の強化だったという。「部⾨横断で統合された顧客データ」と「販売店での情報(新車購入やメンテナンスデータなど)」を一元化し、バッチ処理を日次で行えるようになったことで、顧客の購買行動や好みの変化などをスピーディーに捉えられるようになった。
たとえば、これまでは新車を購入したばかりの顧客にも、新車情報のメールを配信していたが、当人には不要な情報であり、状況によっては煩わしく思われる可能性もある。それが「C360」による顧客データの一元管理により、購入状況をリアルタイムに把握・反映できるようになったことで即座に配信停止という選択がとれるようになった。細かな変化ではあるが、CX向上には大きな一歩といえるだろう。その後、顧客のニーズを分析し、情報収集・検討段階でボトルネックになっている部分を判断することで、顧客の状態に適した情報を提供できるようになった。
「CDPで顧客の状態をリアルタイムに理解したことで、より適切なタイミングでの(メールやLINEによる)情報配信が可能となった。販売店との情報連携も進めており、オンラインでの顧客の行動データを共有することで、より効果的な商談を実現させていく」(北原氏)
また、直近ではCDPに集約したデータを多方面に活用するための仕組みを構築したいという。既にCDPのデータは人手だけでは活用しきれないほどに大きくなっており、AIの活用も大きなテーマとなってきた。実際に2024年度前半から、AIを活用した機械学習サービスとCDPを連携させることで、「新車購入意向度のAIスコアリング」を開発。これはWeb上の行動データをもとに顧客ごとの新車購入意向度を算出し、その他の情報と掛け合わせた結果を基に販売員がアクションをとり、成約率の向上につなげようというものだ。
さらに、外部パートナーとの連携により、顧客のライフスタイルの変化を捉えるための関連データを取得し、その分析結果も併記するようになった。こうした分析結果を販売店と共有するツールが「ヒントカード」と呼ばれるツールだ。
たとえば、小さな子どもがいる家族が来店予定の際、オンライン上の検索履歴からセレナを検討していることを把握。あらかじめ他の状況を含めて情報を「ヒントカード」を通じて販売店に共有し、販売店ではお子さま向けにチャイルドシートを装着した状態の試乗車を準備しておく。そして来店当日、顧客はスムーズに試乗に進むことができ、購買意欲が高まり、成約に至るというわけだ。
こうしたCDPを起点としたデータ分析・活用についても、インキュデータがアドバイザリーとして伴走。分析結果の共有方法やクエリの再利用など、効果的なCDPの活用方法を提案・サポートしている。運用においてもIT部門との連携は重要なポイントだ。末留氏は、「たとえばデータ品質や元データとの差異など、開発中には検知できないこともCDPを使いはじめると生じてくる。それらの原因究明や解説などを通じてIT部門とスムーズな連携を図ることで、快適なCDPの運営に貢献している」と語った。
さらに2025年からは、顧客の次なる行動を予測し、一人ひとりに最適なアプローチやパーソナライズされた提案を目指している。
インキュデータの末留氏は、「ビジネス部門がCDPにアクセスし分析・活用できるだけになっただけでなく、自らの施策効果を直接把握できるようになったことも大きな成果だ」と話す。それによりデータ活用のPDCAサイクルが効率的に回るようになり、より効果的な顧客対応も可能になっていく。
北原氏は「『ヒントカード』など、オンライン・オフラインの情報を共有できる仕組みは既に持っていたが、CDPはそれをさらに加速させるものだ。販売店側の情報もリッチになっていき、フィードバックループが回っていくことで、今度はオンライン施策の精度が高まっていく」と期待を寄せる。
そして、「日産車を購入される方はもちろん、購入して日常的に乗ってくださるお客様にこそ、リアルタイムでより役に立つ情報を提供したり、日常での困りごとの解決を図ったり、寄与できることも多いと考えている。一人ひとりにあわせて快適なカーライフを創出し、支援すること。そのためにCDPを活用し、顧客理解を深めていきたい」と意欲を見せた。
日産におけるCDPは整備されたばかりとはいえ、そこにつながる様々な施策は既に多様化し成熟しているため、今後はさらなる活用による一層のシナジーが期待される。